通常の労働者への転換の推進(改正法第12条)
パート労働者の中には、正社員になりたくても機会がないために、仕方なくパート労働者として働いている人も多くいます。一度パート労働者になると、なかなか正社員になることが難しく、意欲のある人が正社員への道を閉ざされてしまっているという現状があります。
こうしたことから、今年4月に施行される「改正パート労働法」では、パート労働者に対し、通常の労働者(正社員など)への転換を推進するための措置を講じることが事業主に義務付けられました。
具体的な措置としては、次の3つが挙げられています。
(1)通常の労働者を募集する場合、募集に関する情報をすでに雇用しているパート労働者に対して周知する。
(2)通常の労働者のポストを社内公募する場合、すでに雇用しているパート労働者に対して応募する機会を与える。
(3)パート労働者が通常の労働者へ転換するための試験制度を設けるなど、転換制度を導入する。
パート労働者を雇用する事業主は、これらの措置のうち少なくとも一つを講じる必要がありますが、通常の労働者として働くことを希望するパート労働者にそのチャンスを提供することが主眼であって、結果としてすべての希望者を優先的に転換させることまで義務付けたものではありません。
しかし、今回の改正により、正社員の求人内容を社内にも掲示したり、正社員への転換制度のしくみを整えるなど、具体的な対策が求められるでしょう。
苦情処理と自主的解決(改正法第19条)
今回の改正により、事業主に義務付けられている措置に関する苦情をパート労働者から受けたときは、事業主は自主的な解決を図るように努めなければなりません。
具体的には、(1)労働条件の文書等による明示、(2)待遇の差別的取扱いの禁止、(3)教育訓練の実施、(4)福利厚生施設の利用、(5)通常の労働者への転換の推進、(6)待遇の決定についての説明、に関する苦情につき、自主的な解決が求められています。
このため、必要に応じて事業所内に苦情処理窓口(人事担当者や短時間雇用管理者など)を設置し、パート労働者に周知させることなどの取り組みが望まれています。
紛争解決の援助(改正法第21条・第22条)
パート労働者から苦情があった場合や紛争が生じた場合は、事業所内で自主的に解決することが望ましいとされています。
しかし、それでもなお解決できないときは、事業主の義務として課される事項に関する紛争について、その解決を援助するためのしくみが今回新しく設けられました。具体的には次の2つです。
(1)都道府県労働局長による助言・指導・勧告
都道府県労働局長は、紛争の当事者の双方または一方からその解決につき援助を求められた場合には、その紛争の当事者に対して、必要な助言、指導または勧告をすることができます。
(2)第三者機関による調停
都道府県労働局長は、紛争の当事者の双方または一方から調停の申請があった場合において、紛争の解決のために必要があると認めるときは、学識経験者などで構成される専門の第三者機関に調停を行わせます。
なお、パート労働者がこれらの援助などを求めたことを理由として、事業主がそのパート労働者に対して解雇、配置転換、降格、減給、昇給停止、出勤停止、雇用契約の打ち切りなど、不利益な取扱いをすることは禁止されます。
「改正パートタイム労働法(2008年4月施行)」では、事業主は、職務と人材活用のしくみが通常の労働者と同じで、かつ(実質的にも)契約期間の定めのないパート労働者(通常の労働者と同視すべきパート労働者)に対しては、パート労働者であることを理由として、賃金の決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用その他の待遇について、差別的取扱いをすることが禁止されています。
それ以外のパート労働者であっても、働きや貢献に見合った待遇を確保するために、次の措置が新しく設けられています。
「教育訓練の実施」における均等待遇(改正法第10条)
教育訓練については、その訓練の目的に応じて、事業主には次のような対応が求められています。
(1)職務の遂行に必要な能力を身につけさせるための教育訓練
パート労働者が通常の労働者と職務の内容が同じである場合、その職務を遂行するにあたって必要な知識や技術を身につけさせるために通常の労働者に実施している教育訓練については、パート労働者が既に必要な能力を身につけている場合を除き、そのパート労働者に対しても実施しなければなりません。
たとえば、商品の在庫管理に従事している通常の労働者に、その職務遂行上必要とされるデータベースの作成・管理の能力を身につけさせるための訓練を実施しているときは、同じ職務に従事しているパート労働者にも同じ訓練をうけさせることが必要となります。
(2)キャリアアップのためなどの教育訓練
前記以外の訓練、たとえばキャリアアップのための訓練などについては、通常の労働者との均衡を考慮しつつ、そのパート労働者の職務の内容、成果、意欲、能力および経験などに応じて、教育訓練を実施するように努めなければなりません。(努力義務)
「福利厚生施設の利用」における均等待遇(改正法第11条)
パート労働者が職場において健康を保持し業務を円滑に行うために、事業主は、通常の労働者に対して利用の機会を与えている福利厚生施設のうち、給食施設、休憩室、更衣室については、パート労働者に対しても同様に利用の機会を与えるように配慮しなければなりません。
たとえば、食堂の利用が正社員だけに限定されている場合は、パート労働者も利用できるように社内規定などを見直すことが必要となります。
なお、前記の施設以外の施設利用(医療、体育、レクレーションなど)と、そのほかの福利厚生(社宅の貸与や慶弔休暇など)については、改正法ではパート労働者への配慮義務はありません。
しかし、同時に改正施行される「パートタイム労働指針」では、パート労働者の就業の実態や通常の労働者との均衡などを考慮した取扱いをするように努めるものとされています。
このように、パート労働者の差別的取扱いの禁止と通常の労働者との均衡のとれた待遇の確保は、今回の改正の大きな柱となっています。改正法にそった待遇が実施できているかどうか、パート労働者の業務内容や責任の範囲、人事異動の有無、雇用契約期間などを再度点検することが必要となるでしょう。(下記の表参照)
| 通常の労働者と比較して |
|
パート労働者の態様 |
賃金 |
教育訓練 |
福利厚生 |
| 職務の内容(業務の内容および責任の程度) |
人材活用のしくみや運用(人事異動の有無および範囲) |
契約期間 |
職務関連賃金
・基本給
・賞与
・役付手当等 |
左以外の賃金
・退職手当
・家族手当
・通勤手当等 |
職務遂行に必要な能力を付与するもの |
左以外のもの |
・給食施設
・休憩室
・更衣室の利用 |
左以外のもの |
| 同じ(※) |
全雇用期間を通じて同じ |
無期または反復更新により無期と同じ |
 |
(1)通常の労働者と同視すべきパート労働者 |
◎ |
◎ |
◎ |
◎ |
◎ |
◎ |
| 同じ(※) |
一定期間は同じ |
- |
 |
(2)通常の労働者と職務の内容と人材活用のしくみや運用が同じパート労働者 |
□ |
- |
○ |
△ |
○ |
- |
| 同じ(※) |
異なる |
- |
 |
(3)通常の労働者と職務の内容が同じパート労働者 |
△ |
- |
○ |
△ |
○ |
- |
| 異なる(※) |
異なる |
- |
 |
(4)通常の労働者と職務の内容も異なるパート労働者 |
△ |
- |
△ |
△ |
○ |
- |
◎ ・・パート労働者であることによる差別的取扱いの禁止
○ ・・実施義務・配慮義務
□ ・・同一の方法で決定する努力義務
△ ・・職務の内容、成果、意欲、能力、経験などを勘案する努力義務
(※)表についての補足説明
パート労働者の職務の内容が、通常の労働者と「同じ」か「異なる」かの判断は、次のステップにそって行ないます。
〔ステップ1〕業務の内容が実質的に同じかどうか
たとえば、営業職、販売職、事務職、製造工など、従事する業務の種類が同じかどうかを判断します。
(同じ場合) ⇒ 〔ステップ2〕へ
(異なる場合) ⇒ 職務の内容は「異なる」と判断します。
〔ステップ2〕従事している業務について、業務分担表などで、個々の業務に分割、整理したのち、「中核的業務」を抽出して比較します。
たとえば、営業職、販売職、事務職、製造工など、従事する業務の種類が同じかどうかを判断します。
(中核定業務が同じ場合) ⇒ 〔ステップ3〕へ
(中核定業務が一見異なる場合) ⇒ 一見異なる業務であっても、それに必要な知識や技術の水準などの観点から、業務の性質や範囲が「実質的に同じ」かどうかを比較します。
(実質的に「同じ」場合) ⇒ 〔ステップ3〕へ
(実質的に「異なる」場合) ⇒ 職務の内容は「異なる」と判断します。
〔ステップ3〕業務に伴う責任の程度が著しく異ならないかどうかを判断します。
その判断にあたっては、与えられた権限の範囲、成果について求められている期待度や役割、トラブル発生時や臨時・緊急時に求められている対応の程度などを総合的に比較します。
(著しくは異ならない場合) ⇒ 職務の内容は「同じ」と判断します。
(著しく異なる場合) ⇒ 職務の内容は「異なる」と判断します。
通常の労働者と同視すべきパート労働者
近年、働き方が多様化するなかで、パート労働者が企業の基幹的な業務まで担当するようになり、職場において正社員と同じ仕事をすることも珍しくなくなりました。
しかし、パート労働者と正社員との間には、依然として賃金などの待遇に大きな格差があると言われています。
そこで、「改正パートタイム労働法(2008年4月施行)」では、こうした現状を踏まえ、「通常の労働者(正社員)と同視すべきパート労働者」について、パート労働者であることを理由として、賃金の決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用その他の待遇について、差別的取扱いをすることが禁止されます。
「通常の労働者と同視すべきパート労働者」とは、次の3つの要素をすべて満たしているパート労働者をいいます。
(1)職務の内容が通常の労働者と同じ
仕事の内容だけではなく、仕事に伴う責任の程度も「職務」に含まれます。
(2)人材活用のしくみが通常の労働者と同じ
その事業所における慣行その他の事情からみて、雇用関係が終了するまでの全期間において、職務内容の変更及び人事異動が、通常の労働者とパート労働者との区別なく同一の範囲で行われると見込まれる場合をいいます。
(3)期間の定めのない労働契約を締結している
有期労働契約であっても、反復して更新されることによって「期間の定めのない労働契約」と同視することが社会通念上相当と認められるものも含まれます。
「賃金の決定」における差別的取扱い禁止と均等待遇
パート労働者の「賃金の決定」に関しては、正社員との均衡のとれた待遇の確保を図るため、前述の要素に照らし合わせて、以下のタイプに分類され、それぞれ取扱いが決められています。
A 「通常の労働者と同視すべきパート労働者」(職務と人材活用のしくみが通常の労働者と同じで、契約期間が実質的にみても「定めのない」場合)
前述のとおり、パート労働者であることを理由として差別的な取扱いを行うことは禁止されています。
具体的には、個人の能力や成績評価などによって実際に支払われる額が違っていても問題はありませんが、パート労働者であることだけを理由として賃金の額を低く設定することはできないことになります。
B 職務が通常の労働者と同じで、一定の期間において人材活用のしくみが通常の労働者と同じパート労働者
人材活用のしくみが同じである一定期間においては、通常の労働者と同一の方法により賃金(通勤手当、退職手当、家族手当、住宅手当その他の厚生労働省令で定めるものを除く)を決定するように努めなければなりません。(努力義務)
「同一の方法」とは、たとえば、基本給について、正社員と同じ賃金表を適用する、正社員が職能給であればパート労働者も職能給にするなど、同じ給与制度のもとで、同じ評価基準によって賃金を決定することをいいます。
C 職務だけが通常の労働者と同じ、または職務も異なるパート労働者
通常の労働者と均衡を考慮し、その雇用するパート労働者の職務の内容、職務の成果、意欲、能力または経験などを勘案し、賃金(通勤手当、退職手当、家族手当、住宅手当その他厚生労働省令で定めるものを除く)を決定するように努めなければなりません。(努力義務)
たとえば、パート労働者だからといって基本給を一律いくらと設定するのではなく、職務の内容や能力のレベル、経験の差などによって決めることが必要とされるでしょう。
今年5月に国会で成立した「改正パートタイム労働法」が、2008年4月1日から施行されます。
通常の労働者と均衡のとれた待遇を確保することなどが事業主に義務づけられるなど、今回の改正は、パート労働者の雇用管理を行う上では避けて通れない重要な内容が盛り込まれています。
今号から数回に分けて改正のポイントについて詳しくお伝えします。
*「パート労働者」とは…一週間の所定労働時間が、同じ職場で働く通常の労働者(正社員)に比べて短い労働者をいいます。
文書の交付等による労働条件の明示
現在、パート労働者にも適用される労働基準法では、労働条件のうち、文書などによって明示しなければならない事項として、雇用期間、就業場所、業務内容、始業・終業の時刻、時間外や休日労働の有無、休日・休憩、賃金や退職に関する事項などを定めています。
しかし、現行のパートタイム労働法はこの部分については「努力義務」としているため、パート労働者には雇用契約書を交付しなくても差し支えないという誤解が生じていました。
パート労働者は雇用期間や勤務時間などを個々に定める場合が多く、パート労働者に適用される就業規則を示すだけでは十分でない場合もあります。
また、正社員には支給される賞与や退職金などがパート労働者にも有るのか無いのかが不明確であるケースでは、「言った、言わない」のトラブルが生じることも多くなります。
そこで、今回の改正では、パート労働者を雇い入れる時には、労働条件について文書のほか電子メールなどの方法によってパート労働者に明示することが事業主に義務づけられ、明示する事項に「昇給」「退職手当」「賞与」の有無も含まれることが明確になりました。
また、これに関する罰則も設けられ、違反した場合は10万円以下の過料に処せられます。
待遇についての説明
パート労働者がその有する能力を十分に発揮して働くためには、自分の待遇について納得していることが重要となります。
しかし、パート労働者の中には、正社員との待遇の格差があることについて、その理由が分からないため不満を抱いたまま働く人も少なからずいるのが実情です。
そこで、今回の改正では、事業主はパート労働者の待遇について、雇い入れ後にパート労働者から求めがあったときには、その待遇を決定するに当たって考慮した事項を説明することが義務づけられました。説明義務が課せられる事項は以下のとおりです。
(1)労働条件の文書交付等
(2)就業規則の作成手続
(3)待遇の差別的取扱い禁止
(4)賃金の決定方法
(5)教育訓練
(6)福利厚生施設
(7)正社員への転換を推進するための措置
なお、この「説明」とは、パート労働者が納得するまでの説明を求めているのではなく、合理的な理由などの説明を行えば足りるものとされます。
これらの改正にともなって、パート労働者の雇用契約書などの様式に決められた事項が盛り込まれているかどうか点検することや、待遇について説明を求められたときに合理的な説明ができるよう、正社員との待遇の違いをその理由を含めて明確にしておくことが必要となるでしょう。