労務ニュース

高年齢化時代の安全・衛生

      -職場の安全&衛生

高齢化時代の安全・衛生

高齢社会への移行と災害発生
 現在、わが国は急速に高齢社会に移行しつつあり、労働人口に占める高年齢労働者の割合も急速に増加してきています。職場の状況も同様の傾向にあり、雇用労働者全体のうち50歳以上の高年齢労働者が占める割合は約3割となっています。
 このような高年齢労働者は、災害発生率が若年労働者に比べて高くなっており、50歳代では30歳代の1.5倍となり、50歳以上の高年齢労働者が休業4日以上の死傷災害全体に占める割合は、4割強となっています。

高年齢労働者の活用
 高齢社会においては、高年齢労働者がその活力を失わずにその能力を十分に発揮することが必要とされています。高年齢労働者は、一般に、豊富な知識と経験を持っていること、業務全体を把握した上での判断力と統率力を備えていることが多いなどの特徴がありますが、一方では加齢に伴う心身機能の低下が現れ、労働災害発生の要因の1つとなっています。
 今後、ますます労働者の高齢化が進むものと考えられることから、高年齢労働者の労働災害を防止してその活用を図ることが課題となっています。

高年齢労働者の災害防止対策《直接的対策》
 高年齢労働者の特性に即した労働災害防止対策としては、直接的対策と間接的対策が考えられます。直接的対策としては、以下の対策があります。

①墜落・転落防止対策
 (具体例)脚立や移動はしごを避け、高所作業台(車)を活用し無理な姿勢での作業を排除する。

②転倒防止対策
 (具体例) つまずきの原因となる段差を除去する。

③重量物取扱い方法の改善
 (具体例)手押し車等を活用し、また、人力による運搬に適した大きさや重量になるようにロットの設定をする。

④作業姿勢の改善
 (具体例)高さ調節できる作業台、椅子等を使用する。

⑤視聴覚機能の補助等
(具体例)全体照明に局所照明を併用して作業に必要な照度を持たせるようにする。

高年齢労働者の災害防止対策《間接的対策》
 間接的対策としては、以下の対策があります。

①安全衛生管理組織、管理規定、作業標準等の改善
 (具体例)高年齢労働者向けの作業標準を作成する。

②安全衛生教育の実施
 (具体例)災害事例を使っての高年齢労傷者の安全衛生教育を実施する。

③高年齢労働者の技能・知識を生かす職務への配慮
 (具体例)生産技術や安全衛生管理ノウハウの継承のため、若年者教育などの職務を担当させる。

④健康の保持増進
(具体例)定期健康診断の結果に基づく適切な事後措置を行う。

対策の推進
 定年延長等の動向から見ても、雇用の場での高年齢労働者対策はますます重要になってきます。このような対策を講じて職場作りを行うことは、高年齢労働者本人のためにはもちろんのこと、企業や社会全体の活力を維持するために非常に大切であるとされています。各企業におかれてもこのような状況を踏まえて、早めの対策を講じていくことが求められます。

年間安全衛生計画

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★ 年の初めに ★

 年が改まると、その年の安全衛生の年間計画を立てることが必要になります。会社によっては、年度で区切り、4月スタートのところもあると思いますが、その年、または年度のスタート時期に、心を新たに新しい方針と目標の下、社員一丸となって安全衛生を目指す計画を立てていくことが必要と思われます。
 安全衛生計画には、安全衛生方針、安全衛生目標が明確にされていることが必要ですし、さらにそれらを達成するための具体的実施事項が明らかにされていなければなりません。
 
 
 
★ 前年の反省 ★

 安全衛生計画を立てる際に、まず、前年の安全衛生計画の実施状況及び安全衛生目標の達成状況、労働災害の調査結果等を踏まえることが必要です。
 達成できなかった場合は、何が原因だったかを分析し、その対策を新しい計画に盛り込んでいくことが必要です。また、達成できた場合でもその要因を分析し、さらに、高い目標を設定するための足掛かりとすることが大事です。
 
 
 
★ 安全衛生方針の設定 ★

 安全衛生方針は、会社のトップ自らが安全衛生についての基本的な考えを示すものです。
 ここでは、労働災害の防止、リスクの低減などの基本的な事項を明示します。会社の労働安全衛生水準を踏まえて、関係者全員の理解と協力が得られる方針とする必要があります。
 
 
 
★ 安全衛生目標の設定 ★

 安全衛生目標は、安全衛生方針に基づき、リスクアセスメントの実施結果、過去の安全衛生目標の達成状況、労働災害の現状などの実態を踏まえつつ、簡潔で分かりやすく、実現可能な目標(目標が高すぎず、低すぎないもの)で、できるだけ数値化されたものを設定します。
 安全衛生目標は、安全衛生委員会の活用など労働者の意見を反映する手順を経て作成します。各支店、部課ごとに、そこにあった目標を設定します。
 
 
 
★ 具体的実施事項の策定 ★

 以上の方針と目標を実現するために実施していく具体的実施事項を記載します。この具体的実施事項には、次の事項が含まれていることが必要です。

 ① 危険性または有害性の調査及びその結果に基づく実施事項

 ② 労働安全衛生関係法令、事業場安全衛生規程などに基づく実施事項

 ③ 危険予知活動、ヒヤリ・ハット活動、4S活動、安全衛生改善提案活動、
   健康づくり活動、職場巡視などの日常的な安全衛生活動に係る事項

 ④ 安全衛生教育に係る事項

 ⑤ 実施事項の担当部署、及び年間、月間などの日程

 ⇒実施しやすいように、月々に分け、年間を通して全員参加で活動できるよう計画する
年間安全&衛生計画

 
 
 
★ 年間安全衛生計画の周知と実行 ★

 このように作成された年間安全衛生計画は、労働者や関係者に周知することが必要です。この年間安全衛生計画を実行に移す場合には彼らの協力が必要不可欠だからです。ですので、計画は、各人に配布したり、また、職場に掲示したりして、誰でもが確認できるようにしておきます。
 ミーティング等でその内容を分かりやすく説明し、理解してもらうことも必要です。年間を通しての『やる気』を植え付ける工夫もしてみましょう。そして、各月の進捗状況の確認を行い、実行すべき事項を確実に実施しているかチェックしていくことも大切です。

職場の4S

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★ 4Sとは ★ 

 年末が近づくと、一年を締めくくるため身の回りの整理・整頓が気になります。しかし、本来、整理・整頓は年に一度ではなく、仕事をスムーズに進めていくためにいつでも心掛けておくことが必要です。
 そして、この整理・整頓に、清掃・清潔を加え、その頭文字を取って4Sが安全管理の基本として、各職場で、安全管理活動の一環として導入されています。さらに、4Sに躾のSを加えて5Sとしているところもあります。
職場の4Sとは

 
 
★ 4Sの内容 ★

 4Sの意味ですが、
整理」は、いる物といらない物に分けて、いらない物を捨てることです。そのためには、いる物といらない物の分別を日常的に励行しておくことが大切です。
 そして、定期的な大掃除の機会にいらない物として分別されたものをまとめて処分するようにします。

整頓」とは、いる物を容易にいつでも取り出せるように工夫して収納することです。そのためには、使用頻度などを考慮して、使いやすい便利な場所に安全な状態で収納する必要があります。

清掃」とは、汚れている物を掃除して、きれいにすることで、通路、事務室、作業場所、作業用具などをくずやほこりのない状態に保つことです。清掃は、単に掃除するだけでなく、これにあわせて整理・整頓の仕上げの役目も持っています。
 
清潔」とは、いつも、きれいにしておくことです。
 
 
★ 4Sの進め方 ★

 4Sを効果的に推進するためには、以下のことが必要です。

①トップの熱意と姿勢が重要
 職場全体で行わないと効果が出ないので、それを指示するためには、職場のトップが4Sの意義を十分理解して従業員に指示することが必要です。

②職場の全員での活動とする
 一部が抜けたり、さぼると効果が出て来ないことから、職場の全員で取り組む活動とすることが必要です。

③職場での各人の分担する役割を決める

④間断のない日々の取組とする
 
 
★ 4Sのチェック ★

 4Sを推進していく上でのチェックポイントは、以下のとおりです。

整理 
・不要な物の廃棄基準があるか
・整理を推進する責任者が選任されているか

整頓 
・物の置き場所が定められているか
・その置き場所ごとに置く物の種類や数量が定められているか

清掃 
・日常の清掃が行われているか
・清掃の受け持ち区域が定められているか

清潔 
・職場が見た目で清潔な状態となっているか
・疾病や怪我が発生するようなところはないか
 
 
★ 4Sの効果 ★
 以上の4Sの活動を実践していくことにより、安全で快適な職場づくりができることになります。
 このように職場環境を快適にするための取組をしていくことにより、働きやすい職場が形成され、仕事の質があがり、顧客の信頼の増加につながることになります。

健 康 K Y

     -職場の安全&衛生


★ 健康KY ★

 職場における安全を進めていく手法で、KYが有効だとされています。ここで、Kは危険(キケン)のことで、Yはこれを予知(ヨチ)することです。
 具体的には、職場や作業の状況のなかにひそむ危険要因とそれが引き起こす現象を、作業する前に集団で話し合い、考え合い、分かり合って危険のポイントを確認して、その対策を共通認識として実行することで作業の安全を進めていくものです。これを職場における健康管理についても応用したものが健康KYです。
 以下、職場での健康KYの進め方を説明します。


★ 自分の健康チェック(ヘルスチェック) ★

 一人ひとりの健康状態は、それぞれ個別で日々時々刻々と変化しています。そして、健康状態が良くないと、それが不安全行動や事故につながることがあります。
 健康は、労働者が自分自身で守ることが原則です。労働者は、「毎日のヘルスチェックリスト」等により、自分自身の健康に日頃から注意を払うことが必要です。労働者が自分白身の健康状態を客観的に把握することが健康KYの第一歩です。
毎日のヘルスチェックリスト


★ 労働者同士によるチェックと声掛け ★

 朝、職場の人と「あいさつ」を交わす時、その人の健康状態が分かることがあります。同僚がいつもと違い元気がない時、顔色が悪かったりした時、声を掛けてみましょう。同僚による声掛けで、本人が自分の健康状態に気づくことがあります。
 このように職場の一人ひとりが互いに声を掛け合い、本人の気づきの手助けをすることも健康KYに必要です。


★ 管理者による職場全体の健康管理 ★

 職場の管理者は、労働者の健康状態について注意を払う必要があります。労働者が不安全行動をしたり事故を起こしたりする場合、それを引き起こす要因は労働者に疲労が蓄積する等健康状態に問題があることが多いからです。
 そのためには、管理者は、始業時のミーティングの際に、労働者自らに健康状況を自己チェックさせて申告させたり、労働者一人ひとりの健康状況をよく観察したり、問い掛けしたりして把握し、適切な指導及び必要な措置を行うことが大切です。これの実行が健康KYと言えます。
 この健康KYを進める際に、労働者同士の「あいさつ」「話し掛け」時の表情は、その人の心の健康状態が反映されていることが多いので、朝礼時の問視は、特に重要なポイントとなると言われています。


★ 健全な職場づくり ★

 このように健康KYに職場全体で取り組むことにより、事故がなく、健康で気持ちよく働ける職場づくりが可能になります。

労働衛生の3管理

     -職場の安全&衛生

★ 労働者の健康を守るための3管理 ★

 労働者の健康を守るためには、労働衛生管理体制を活用して、作業環境管理・作業管理・健康管理を進めていくことが大事です。これを「労働衛生の3管理」と呼んでいます。以下、それぞれの管理の内容を説明します。
労働衛生の3つの管理

★ 作業環境管理 ★

 作業環境管理とは、作業場所の物理的環境(温度・湿度・気圧・照度・騒音等)や有害物質(有害ガス・粉じん・有機溶剤等)の気中濃度を、主として工学的な方法を用いてコントロールすることにより業務に起因する健康障害の発現を防ぐとともに、快適な作業が遂行できるようにすることをいいます。
 この作業環境管理を適切に行うためには、作業場所の物理的環境や有害物質の気中濃度を定期的に測定する作業環境測定が必要で、それは労働安全衛生法第65条に定められています。そして、その結果の評価に基づいて必要な措置を講じることにより、良好な作業環境を実現・維持し、労働者の健康を守っていくことになります。


★ 作業管理 ★

作業管理とは、作業時間・作業量・作業方法・作業姿勢等をコントロールし、保護具を適切に使用することにより、業務に起因する健康障害を防ぐとともに、快適な作業が遂行できるようにすることをいいます。
 作業時間管理の例として、パソコン等によるVDT作業では、厚生労働省のガイドラインで1連続作業時間は1時間を超えないようにすること、連続作業の間に10~15分の作業休止時間を設けることとされています。
 また、保護具は、有害な物質等が作業者の体内に取り込まれることを防ぐための器具で、防毒マスク・防じんマスク・保護眼鏡・保護手袋等があります。


★ 健康管理 ★

 健康管理とは、労働者の健康状態を一定の方法で継続的に把握することにより、疾病の早期発見、労働による健康への影響の評価を行い、その結果に基づく事後措置を的確に実施して、労働者の健康の保持増進を図ることをいいます。
 ここでは、産業医や保健師などの専門家の意見を積極的に取り入れて、労働者の健康障害を未然に防ぐとともに、さらに、健康増進につながるような取組みを行うことで、労働者の健康の保持増進を図ることが必要とされています。


★ 3管理を実行するための労働衛生教育 ★

 以上、労働者の健康を守るための労働衛生の3管理を進めていく場合に必要なのは、労働者の理解です。
 例えば、保護具を使用する場合にも、自分の健康を守るために必要であることを理解しないと着用することを怠る場合がでてきます。自分の行っている作業の有害性を理解してはじめて保護具の着用の必要性が理解できることになります。
 そこで、事業者は労働者に対して労働衛生教育を行うこととされています。労働衛生教育により、労働者に自分が従事する業務に関する労働衛生の3管理の具体的知識を教え、自主的に実行できるようにしてはじめて3管理の実効性が確保できることになるといえます。

フール・プルーフとフェール・セーフ

     -職場の安全&衛生

★ 2つの安全機構 ★

 今回は、人間と機械の関係について、安全確保の観点から考えてみることにしましょう。
 人の特性として「ウッカリ」すること(ヒューマンエラー)がありますが、このような人間に着目した安全機構としてフール・プルーフがあり、また、機械システムに着目した安全機構にフェール・セーフがあります。この二つの考え方は、安全の基本を考える上で重要ですので見ておくことにしましょう。


★ フール・プルーフ ★

 フール・プルーフとは、人間が機械設備の操作を間違えたり、機械設備に異常や故障があっても危険な状態になるような操作ができないようにした安全機構のことを言います。
 このフール・プルーフ機構の例としては以下のものがあります。

①インターロックガード
 ガードが開いている間は機械は作勤しないで、また、機械が作動している間はガードを開くことができないようになっている機構
 
②両手操作式機構
 両手で同時に押ボタンやレバーを操作させることにより、手を危険領域から隔離するようになっている機構

③オーバーラン機構
 動力を遮断した後も惰性で運動を続けている機械で、スイッチを遮断した後、回転などの運動が完全に停止しなければガードが開かない機構

④トリップ機構
 接触板、接触棒などに身体の一部が接触すると、機械が停止または逆転復帰する機構(接触式)や、光線式などにより身体の一部が危険域に接近すると機械が停止または逆転復帰する機構(非接触式)

★ フェール・セーフ ★

 フェール・セーフとは、機械やその部品に故障や機能不良が生じても常に安全側に作動する安全機構のことを言います。
 フェール・セーフは、さらに構造的フェール・セーフと機能的フェール・セーフに分けられます。
 構造的フェール・セーフの例としては、機械設備の運転中に故障が発生すると、予想外の動作をすることがあるので、停電状態から通電状態になった時に不意に作動しないような構造的な誤作動対策機能をあらかじめ制御装置に施しておくこと等があげられます。
フェール・セーフ
 また、機能的フェール・セーフの代表的なものに鉄道信号があります。鉄道信号では、故障によって青であるべき信号が赤になっても、電車が停止するだけですが、赤であるべき信号が青になれば重大な事故を招くおそれがありますので、鉄道信号では故障した時には常に赤になるようになっています。


★ 世界に先駆けたシステム化 ★

 以上、人間と機械の関係について、安全確保の機構としてフール・プルーフとフェール・セーフがあることを見てきましたが、こうした考え方を追求し、世界に先駆けてシステムとして具体化を図ったのはわが国です。
 わが国の技術の信頼性が高いのも、その背景にはこのような安全に対する考えを機械設備にシステム化、具体化する姿勢を世界が認めてくれたからではないでしょうか。

ヒューマンエラー

     -職場の安全&衛生

★ 労働災害の人的要因 ★

 今回は、労働災害が発生する場合の人的要因の1つであるつい「ウッカリ」したについて考えてみることにしましょう。この「ウッカリ」することはヒューマンエラーと言われていて、人の特性といえ、どの人にも起こり得ます。ですので、完全になくすことは不可能ですが、少なくしていくことは可能です。
 そのためには、ヒューマンエラーはどのようなものか、どのような時に起こりやすいかを知ることが大切ですし、これを踏まえて適切な対応を取ることも必要です。
ヒューマンエラー


★ ヒューマンエラーが起きるとき ★

 それでは、ヒューマンエラーが起きるときを見てみましょう。

①「判断の甘さ」-この程度なら大丈夫だと思った
②「習慣的な動作」-反射的に手を出した、いつものように安易に行動した
③「注意転換の遅れ」-あることに集中し過ぎて、他の危険に気付かなかった
④「思い込み省略」-いつものことと思い確認しなかった
⑤「情報処理の誤り」-読み違い、聞き違い、早合点、勘違い

あなたにも思い当たることがありませんか?また、このようなエラーは、ベテランの労働者に多く見かける傾向があります。熟練していることで、いつものように、反射的に行動に移してしまったことが災害の原因になることもあるので、注意をする必要があります。


★ ヒューマンエラーの防止 ★

 それでは、このようなヒューマンエラーをどのようにしたら防止することができるか考えてみましょう。
 それには、頭文字にすべてMがつくので「4つのM」と呼ばれていますが、この4つのMを強化していくことが必要とされています。

①マン(人間関係)の強化

仕事に対する指示を通りやすくし、話し合いをよくすることで職場の人間関係をよくしてヒューマンエラーの防止に努める。


②マシン(機械や環境)について

設備を本質安全化(人がミスしても、また、機械が故障しても、どのような場合でも事故や災害につながらないような機能を持たせること)する。そして人間工学的配慮(使いやすく間違いにくいものに改善すること)を行う。


③メディア(仕事のやり方や連絡の方法など)について

危険に気付く仕組みを強化する。作業指示書や手順書を積極的に活用し、作業中の危険の存在を明確にして、KY(危険予知)ミーティングなどの活発化を図る。


④マネジメント(安全管理を進める仕組み)の強化

職場の1人ひとりの役割分担を明らかにして監督指示、計画的な教育の実施と職場の問題点を解決する具体的な安全活動を、P(計画) D(実行)C(チェック) A(改善)の管理サイクルを確実に実行することにより活性化する。


★ 安全担当者(部署)の役割 ★

 各職場の安全担当者や会社の安全担当部署は、以上述べた4つのMに目を向けて、ヒューマンエラーの発生を可能な限り減少させることにより、職場から労働災害をなくしていくことが大切です。

全国安全週間のスローガンと安全の歴史

     -職場の安全&衛生

★ 全国安全週間のスローガン ★

 今回は、全国安全週間のスローガンの歴史を見て、安全を考えてみたいと思います。
 全国安全週間は、産業界における自主的な労働災害防止活動を推進するとともに、広く一般の安全意識の高揚と安全活動の定着を図ることを目的として、昭和3年から実施されています。期間は、7月1日から7月7日までです。全国安全週間では、毎年スローガンが設けられ、その時代の安全の課題を示しています。
全国安全週間


★ 戦前のスローガン ★

 第1回(昭和3年度)「一致協力して怪我や病気を追彿ひませう」、第7回(昭和9年度)「守れ安全日本の飛躍」、第10回(昭和12年度)「興せ産業 努めよ安全」、第14回(昭和28年度)「總力戦だ 努めよ安全」、第17回(昭和19年度)「決戦一路 安全生産」
 最初のころは、単純明快な安全標語だったのですが、次第に勇ましくなり、昭和16年以降は戦時色の濃いものになっています。


★ 高度経済成長時のスローガン ★

 戦後は、戦時中の産業報国運動に対する批判もあり、安全週間から統制色を払拭したいという気持のあらわれからも、昭和20年度から35年度まではスローガンによる呼びかけは行われませんでした。ただ、高度経済成長に突入し、労働災害が多発したこともあり、科学的、組織的な安全管理の推進を呼びかけようという動きを反映させて昭和36年からスローガンが復活しました。
 第34回(昭和36年度)「作業設備をととのえて 職場の安全をはかろう」、第38回(昭和40年度)「設備・環境を改善整備して無災害の職場をつくろう」、第43回(昭和45年度)「設備・作業の安全化と環境の整備をすすめ けがのない明るい職場をつくろう」
 この時代は、多発する災害の対策として、機械設備などのハード面や作業方法などのソフト面から、強力な安全の取組が必要とされたことをスローガンが物語っています。


★ 近時のスローガン ★

 近時、労働災害は、様々な災害防止活動の取組等により減少傾向にあります。しかし、災害の減少の鈍化がみられるようになると、災害を発生させるリスク(危険)まで踏み込んで災害防止を行うことが必要となってきました。以下のスローガンにはそれがあらわれています。
 第73回(平成12年度)「災害ゼロから危険ゼロヘ みんなで築こう新しい安全文化」、第78回(平成17年度)「トップの決意とみんなの創意 リスクを減らして進める安全」、第83回平成22年度)「みんなで進めようリスクアセスメント めざそう職場の安全・安心」


★ 今年度のスローガン ★

 第84回となる今年度のスローガンは「安全は 家族の願い 企業の礎 創ろう元気な日本!」です。この趣旨は、企業を支えるのは働く人であり、その安全こそが企業の力の源泉であり、また、家族が安心して暮らすための大前提であることを訴え、それとともに未曾有の大震災を克服し、元気な日本を創るメッセージを盛り込んだものです。
 今年度のスローガンは、安全の基本に立ち返り、皆の心に響くメッセージ性の高いものと言えます。後年振り返ってみると、もっともその時代をあらわしたスローガンということになるのではないかと思います。

災害発生・4つの責任

     -職場の安全&衛生

災害発生・4つの責任

★ 【 災害発生4つの責任 】 ★

 今回は、労働災害が発生した場合の企業の責任を見てみることにしましょう。この場合、刑事責任、民事責任、行政上の責任、社会的責任の4つの責任があるとされています。以下、それぞれの責任の内容を説明します。


【刑事責任】
 労働災害が発生すると、労働基準監督署が調査に来て、労働安全衛生法違反の疑いがあり、必要と認められた場合には、労働安全衛生法違反被疑事件として捜査が開始されることがあります。労働安全衛生法は、罰則規定があるからです。
 労働基準監督官は刑事訴訟法上の特別司法警察員として事件を捜査する権限を有していて、取調べ後、地方検察庁に事件を送致します。また、警察も業務上過失致死傷の違反の有無について捜査を行い、管轄の地方検察庁に事件を送致します。このように各捜査機関から送致された事件は、検察官による取調べが行われ、必要に応じて起訴されることになります。


【民事責任】
 労働災害によって被った労働者の身体・生命・健康などの損害について、民事上の債務不履行や不法行為による損害賠償請求が行われることがあります。近頃は、このような賠償請求の事案が増加しています。
 また、使用者の安全配慮義務違反として損害賠償請求が行われ、1億円を超す多額の賠償金が認められるケースも出てきています。この安全配慮義務とは、事業経営を行う者が労働者を雇い入れた場合に課せられる義務のことで、業務の遂行に関して、労働者の身体や生命に生じる危険から労働者を保護する義務のことです。この義務は、判例法理として認められてきましたが、平成19年に制定された労働契約法で明文化されています。


【行政上の責任】
 労働基準監督署が労働災害調査時に労働安全衛生法違反として機械設備の使用停止命令や作業停止命令などの行政処分を行ったり、法令違反の是正勧告を行ったりすることがあります。
 また、建設業などでは労働安全衛生法違反の死亡災害や重大災害が発生した場合には、通報制度によって厚生労働省から国土交通省にその事実を通報することがあります。それにより、災害を発生させた事業者にその後一定期間公共工事の入札の参加が停止されることがあります。


【社会的責任】
 近年、企業の社会的責任(CSR)の面から労働災害を発生させた企業に対する世論の批判や責任追及は厳しくなってきています。CSRとは、企業活動において、社会的公正や環境などへの配慮を組み込み、従業員、投資家、地域社会などの利害関係者に対して責任ある行動をとるとともに、説明責任を果たしていくことを求める考え方です。労働災害を発生させ、さらにその後の対応が悪いと、この責任を果たしていないということで、今まで築いてきた企業の社会的信用を失墜させる結果となります。

★ 責任を踏まえた対策 ★

 以上、企業にとってはそれぞれ重い責任だと思います。ただ、安全・安心な企業づくりのためには、これらの責任を意識して、これらを十分踏まえた安全対策を講じていくことが必要だと思います。

ハインリッヒの法則

     -職場の安全&衛生

★ 【 1 対 29 対 300 】の法則 

 労働災害防止の勉強をすると、必ず「ハインリッヒの法則」がでてきます。アメリカの損害保険会社の安全技師だったハインリッヒは、災害について研究し、「ハインリッヒの5つの駒の原理(ドミノ理論)」や「災害の直接コストと間接コストの1対4比率」などを提唱して、科学的な安全管理の先駆けとなりました。
 彼が提唱したもので最も有名なのがハインリッヒの「1対29対300」の法則です。これは、55万件余の事故・災害を統計学的に分析して、その内容を以下の3つに分けました。すなわち①重大な事故が0.3%、②軽微な事故(微傷災害)が8.8%、③無傷の事故(ヒヤリ・ハット)が90.9%の3つです。そして、ここから1件の重大な事故が起きる際には29件の軽微な事故(微傷災害)と300件の無傷の事故(ヒヤリ・ハット)が起きる可能性があるとの法則を導き出したのです。
 また、この300件の無傷の事故の背後には、多くの不安全行動や不安全状態があることを指摘しました。ですので、事故をなくそうとすれば1対29の傷害を伴う事故の防止に力を注ぐだけでなく、不安全行動や不安全状態をなくすように努め、傷害を伴わない300の事故の発生の予防を図ることが重要となります。
ハインリッヒの「1:29:300」の法則


★ 法則から必要とされる安全管理

 「1対29対300」の法則は、事故が発生しない事業場だからといって、安全管理がよい職場であるとは言い切れないことを示唆しています。「安全管理がよい」ということは、傷害事故や物損事故がないだけでなく、災害発生の危険性(リスク)を低減または除去することによって、将来においても災害の発生可能性が十分低い状態にまでよく管理されていることを言います。


★ ヒヤリ・ハットの実践

 安全管理の第一歩は、職場の危険要因を発見し、これを取り除くことなどによって災害が発生する確率を低下させる危険管理にあります。この手法として、ヒヤリ・ハット活動が効果的です。
 具体的には、各職場でヒヤッとしたり、ハッとしたりしたことをあげてもらうことから始めます。これらは、事故にならずに「ああよかった」と直ぐに忘れがちになってしまったり、見過ごされてしまうことが多いのですが、それを報告してもらい、ヒヤリ・ハットの事例を集めます。この事例の中に重大な災害に発展する危険が潜んでいるからです。これをもとに管理者は「危険」が災害の発生に結びつかないよう対策をしっかり溝じていき、職場の危険の芽を摘み取る管理をしていきます。
 ヒヤリ・ハット活動は、現在多くの会社で取り入れていますが、NASAに宇宙飛行士を送り込んでいるJAXAでも取り入れています。有人宇宙システムでは高い安全水準が要求されますが、各職場でヒヤリ・ハット活動を実践し、その情報を水平展開することにより組織全体の取組にしています。
 なお、ヒヤリ・ハットを実践する上で最も大事なのが、危険の感受性です。危険なものを危険と感じる感受性がないと活動そのものが低調となり、効果を上げることができません。ですので、日ごろからこの感覚を向上させていくことが必要だと思います。

100年目の「安全第一」運動

       -職場の安全&衛生

 安全・安心な職場づくりは企業にとっても働く人にとっても欠かせないものとなっています。このような職場づくりを行うため、どのようにして職場の安全管理、衛生管理、労働者の健康管理を行っていったらよいか、そのキーポイントをこれから数回にわたり連載していきます。

■ 日本の安全運動の創始「安全専一」
 2011年は、日本の産業界における安全運動の始まりから100年目に当たるということから、現在、中央労働災害防止協会が音頭をとって「産業安全運動100年記念事業」が展開されています。
 この日本の産業界の安全運動の創始は、1906年アメリカ産業界で提唱された「セーフティー・ファースト」の運動に感銘を受けた古河鉱業足尾鉱業所所長の小田川全之(おだがわまさゆき)氏が1912年(大正元年)、「安全専一(あんぜんせんいち)」と名付けた掲示板を足尾鉱業所の坑内外に掲示し、従業員の安全意識の高揚を図るなど鉱業所をあげて安全活動を始めたことだとされています。「産業安全運動100年記念事業」は、この日本における安全運動創始の年から100年目に当たる2011年に、経営トップから現場まで、働くすべての人が、先人の安全にかけた思いを振り返るとともに、これからの安全衛生活動の在り方を考えることによって、安全衛生意識の一層の向上と、安全衛生活動のさらなる進展を目指していこうとするものです。

■ アメリカで始まった「安全第一」
 それでは、小田川氏が感銘を受けた「セーフティー・ファースト」の運動の説明をしましょう。
 1900年頃のアメリカの製鉄業は不況で、設備・機械は改善されない上、手入れもされず酷使していたためそこで働く労働者の労働災害が続出しました。また、労働者も不況なので、文句を言えばクビになることを恐れて何も言えずにいました。
 この悲惨な状態を知り、これを改善するため、1906年、アメリカの製鉄業USスチール社のゲーリー会長は、会社の経営方針を「安全第一 (SAFETYFIRST)」「品質第二」「生産第三」と改めて、何よりも安全を優先するよう指示を出しました。
 そして、ゲーリー会長は、労働者が安心して働ける理想的な安全第一の工場建設を決意し、以下のことを実施しました。

 ・物の流れをスムーズにする
 ・すべての機械には、必ず安全装置を付ける
 ・不安全な箇所については、細かいところまで安全を措置する
 ・安全標識は、誰でも分かる記号を用いて設置する
 ・工場内を明るくし、常に清潔を保つ

 このような取組の結果、USスチール社の災害は減少し、その上、製品の品質も、生産量も向上し、会社に大きな繁栄をもたらすことになりました。
 このゲーリー会長の「安全第一」の実践的成果は、アメリカの経営者達の関心を呼び、アメリカ合衆国全州はもとより、ヨーロッパ各国にも広がりました。
 そして、日本にも前述した古河鉱業の小田川全之氏の取組をはじめとして、「安全第一」運動の移入がなされました。

■ わが国の労働災害の現状から ‐改めて「安全第一」の必要性‐
 ところで、現在のわが国の労働災害発生状況ですが、実はあってはならない死亡災害について緊急事態が発生しています。それは2000年以降減少し続けてきた死亡災害が、今年1月時点の速報値ではありますが、2010年は死亡者数が対前年比で159名、16.6%もの増加となっていることです。これを受けて、今後行政でも様々な対策がとられることと思いますが、そのような時だからこそ、今改めて、安全を第一とする「安全第一」運動の思いを見直し、それを実践する必要があると思われます。

不利益取り扱いの禁止   -育児・介護休業法を守っていますか?

         (ケース別チェック)

● ケース(1)  育児休業から復帰する正社員に対して、人事の都合で、復帰後は当面の間パートタイム勤務に変更することに同意してもらう場合

〔不利益取扱いの禁止〕
 育児一介護休業法(第10条)では、労働者が育児休業の申出をし、または育児休業したことを理由として事業主がその労働者に対して解雇その他の不利益な取扱いをしてはならないと定めています。
 この定めは介護休業、子の看護休暇・介護休暇、所定外労働の免除や短時間勤務制度などについても準用されています。

 解雇以外の「不利益な取扱い」とはどういうものをいうのかは、同法に関する指針において次のように例示されています。
 ①期間を定めて雇用される者について、契約の更新をしないこと。
 ②あらかじめ契約の更新回数の上限が明示されている場合に当該回数を引き下げること。
 ③退職又は正社員をパートタイム労働者等の非正規社員とするような労働契約内容の変更の強要を行うこと。
 ④自宅待機を命ずること。
 ⑤労働者が希望する期間を超えて、その意に反して所定外労働の制限、時間外労働の制限、深夜業の制限又は所定労働時間の短縮措置等を適用すること。
 ⑥降格させること。
 ⑦減給をし、又は賞与等において不利益な算定を行うこと。
 ⑧昇進・昇格の人事考課において不利益な評価を行うこと。
 ⑨不利益な配置の変更を行うこと。
 ⑩就業環境を害すること。
 このうち、③に該当するかどうかの判断の際に勘案される事項について、指針では、勧奨退職や正社員をパートタイム労働者などの非正規社員とするような労働契約内容の変更は、労働者の表面上の同意を得ていたとしても、これが労働者の真意に基づくものでないと認められる場合には、変更の強要を行うことに該当する、としています。
 したがって、ケ-ス①のように業務上の都合によリパートタイム勤務に変更してもらう場合は、本人の希望なども踏まえながら、変更の理由や労働条件、正社員への復帰の見通しなどを十分に伝えるように努め、本人の真意に基づいて同意してもらうようにすることが前提となるでしょう。



●ケース(2)
 賞与を決定する際に、算定期間の一部に育児休業した社員を、勤怠状況の評価による減額の対象とする場合

 前述のように、労働者が育児休業の申出をし、または育児休業したことを理由として禁止されている不利益な取扱いの例として、「減給をし、又は賞与等において不利益な算定を行うこと」(例示⑦)が挙げられています。
 その判断の際に勘案するものとして、指針では、育児休業した労働者の賞与の決定にあたって、休業した期間の総和に相当する日数を日割りで算定対象期間から控除するなど、育児休業により労務を提供しなかった期間は働かなかったものとして取り扱うことは「不利益な算定」には該当しないとする一方で、休業期間の総和に相当する日数を超えて働かなかったものとして取り扱うことは、「不利益な算定を行うこと」に該当するとしています。
 このように、賞与額を決める上で育児休業を取得した期間を勘案し、通常の支給額から減額する際には、その期間を超えて働かなかったとするような「不利益な算定」をしないことが求められます。
 また、昇進・昇格の人事考課においても、休業期間を超える一定期間を昇進・昇格の選考対象としない人事評価制度とすることなどは、不利益な取扱いを行ったものと判断されることもありますので、注意が必要となります。

短時間勤務制度   -育児・介護休業法を守っていますか

         (ケース別チェック)

●ケース(1)  2歳の子を養育する正社員から、当面の間、始業時刻を1時間繰り下げることで、1日の所定労働時間を8時間から7時間に変更してほしいという申し出があった場合

〔短時間勤務制度の措置〕
 育児・介護休業法では、働きながら子の養育を行うための時間を確保できるようにするため、3歳に満たない子を養育する労働者であって育児休業をしていない者が希望した場合、事業主は、対象外とすることができる人(*)を除いて、原則として所定労働時間の短縮措置(いわゆる「短時間勤務制度」)を講じなければならないと定めています。
 この場合の短時間勤務制度とは、1日の所定労働時間を原則「6時間」とする措置を含むものとしなければなりませんが、1日の所定労働時間を6時間とする措置を設けた上で、そのほかに、例えばケース①のような申し出があったときは「7時間」とする措置を設けることも、労働者の選択肢を増やす意味では望ましいものとされています。

(*)■日々雇われる者
   ■1日の所定労働時間が6時間以下の者
   ■労使協定の締結により適用を除外できる以下の労働者
    (ア)入社1年未満の者
    (イ)1週間の所定労働日数が2日以下の者
    (ウ)業務の性質または業務の実施体制に照らして、
       短時間勤務制度を講ずることが困難と認められる業務に従事する者

 短時間勤務制度の措置は、常時雇用する労働者が100人以下の企業では、所定外労働の免除、フレックスタイム制、始業時刻の繰り下げや終業時刻の繰り上げなどの措置の一つとして、選択的に導入していれば良いとされていますが、平成24年7月1日からはこの措置が義務づけられます。

●ケース(2)  経理担当の正社員から、養育する子が3歳になるまで、短時間勤務にしてほしいという申し出があったが、会社として月末や決算前など繁忙期には短時間勤務を認めたくない場合

 子が3歳になるまでの短時間勤務制度は、申し出があれば原則として利用させなければなりませんが、前述のとおり労使協定を締結することにより、「業務の性質または業務の実施体制に照らして、短時間勤務制度を講ずることが困難と認められる業務に従事する者」を対象外とすることができます。

 育児・介護休業法に関する指針では、次のように、短時間勤務制度の対象とすることが困難な業務の例を示しています。
1.業務の性質に照らして、制度の対象とすることが困難と認められる業務
 国際路線等に就航する航空機において従事する客室乗務員等の業務
2.業務の実施体制に照らして、制度の対象とすることが困難と認められる業務
 労働者数が少ない事業所において、当該業務に従事しうる労働者数が著しく少ない業務
3.業務の性質及び実施体制に照らして、制度の対象とすることが困難と認められる業務
 (ア)流れ作業方式による製造業務であって、短時間勤務の者を勤務体制に組み込むことが困難な業務
 (イ)交替制勤務による製造業務であって、短時間勤務の者を勤務体制に組み込むことが困難な業務
 (ウ)個人ごとに担当する企業、地域等が厳密に分担されていて、他の労働者では代替が困難な営業業務


 ケース(2)の申し出にかかる業務が「業務の実施体制に照らして、制度の対象とすることが困難と認められる業務」に該当するかどうかは、業務量と担当者の人数などを考慮し、労使間で話し合いのうえ判断することになります。
 なお、対象とすることが困難と認められる業務に就く者として短時間勤務制度の適用を除外された労働者に関しては、申し出に基づいて育児休業に準ずる措置またはフレックスタイム制、始・終業時刻の繰上げ・繰下げ、事業所内保育施設の設置運営など、労働者の働きながらの子育てを容易にする代替措置を講じなければならないとされています。

所定外労働時間の免除   -育児・介護休業法を守っていますか

         (ケース別チェック)


●ケース(1)
 1歳の子を養育する正社員から、保育園に子を迎えに行<必要があるので、これから1年間、残業や休日勤務を免除してほしいという申し出があった場合

〔所定外労働の免除〕
 育児・介護休業法では、働きながら子の養育を行うための時間を確保できるように、3歳に満たない子を養育する労働者から請求があったときには、事業主は、事業の正常な運営を妨げる場合を除き、原則として、その労働者に対して残業など所定労働時間を超えて労働させてはならないと定めています。

 「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当するか否かは、その労働者の所属する事業所を基準として、担当する業務の内容や作業の繁閑、代替要員の配置ができるかどうかなどの事情を考慮して客観的に判断することが必要となります。
 したがって、ケース①のような申し出があったときは、対象外とすることができる人(※)を除いて、原則として残業や休日労働をさせてはなりません。

(※)■日々雇われる者
   ■労使協定の締結により適用を除外できる以下の労働者
    (ア)入社1年未満の者
    (イ)1週間の所定労働日数が2日以下の者

 所定外労働の免除は、常時雇用する労働者が100人以下の企業では、勤務時間の短縮、フレックスタイム制、始業時刻の繰り下げや終業時刻の繰り上げなどの措置の―つとして、選択的に導入していれば良いとされていますが、平成24年7月1日からはこの免除措置が義務づけられます。
 


●ケース(2)
 2歳の子を養育するため、6ヵ月間残業を免除されていた正社員から、子が3歳になるまで延長して残業や休日勤務を免除してほしいという申し出があった場合

 所定外労働の免除の請求は、1回につき、1ヵ月以上1年以内の期間を指定して、開始の日の1ヵ月前までに事業主に通知しなければなりませんが、この請求は何回でもすることができます。
 したがって、ケース②のような延長の申し出があったときでも、原則として拒むことはできません。
 


●ケース(3)
 週5日、各日6時間勤務のパートタイマーから、1歳の子を養育するため、残業を免除してほしいという申し出があった場合

 「所定労働時間」は、労働契約上でその労働者に適用される労働時間をいいます。ケース③のように、1日6時間勤務のパートタイマーから請求があれば、たとえ残業があリ法定労働時間である1日8時間の範囲内であっても、原則として請求を認めなければなりません。
 


●ケース(4)
 5歳の子を養育する正社員から、子が小学校に入るまでは残業を免除してほしいとの申し出があった場合

 前述のとおり、所定外労働をさせてはならないのは、3歳に満たない子を養育する労働者から請求があった場合ですが、3歳から小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者については、育児休業に関する制度、所定外労働の免除、所定労働時間の短縮措置、始業時刻の繰り下げ・終業時刻の繰り上げなどの必要な措置を講じることが事業主の努力義務となっています。
 したがって、ケース④のような場合は、必ずしも申し出どおり残業を免除しなくてもよいのですが、仕事と子育ての両立を支援するために、こうした措置を就業規則などに定め、労働者が希望した場合には適用できるようにすることが望ましいとされています。

子の看護休暇・介護休暇   -育児・介護休業法を守っていますか?

         (ケース別チェック)


●ケース(1)
 5歳と3歳の子を養育する社員から、3歳の子がインフルエンザにかかったので、7日間程度看護休暇を取りたいという申し出があった場合

●ケース(2) 
 4歳の子を養育する社員から、子の健康診断の付き添いのために看護休暇を取りたいという申し出があった場合


〔 ●ケース(1) 子の看護休暇の上限日数 〕
 養育する小学校就学前の子がけがや病気をしたときにその子を看護するための休暇(子の看護休暇)については、対象となる子が1人の場合は1年に5日まで取得することができます。また、子が2人以上の場合は10日まで取得できますが、これは、子1人につき5日間までしか取れないというものではな<、1人の子だけについても10日間まで取ることができるというものです。
 また、このケースのように子が急に熱を出したときなど突発的な事態に対応できるよう、休暇取得当日の申出も認められます。

〔 ●ケース(2)子の看護休暇の取得事由 〕
 子の看護休暇を取得できる事由については、けがや病気にかかったときの世話のほかに、子に予防接種や健康診断を受けさせるときも含まれます。
 予防接種は、インフルエンザ予防接種など、予防接種法に定める定期の予防接種以外のものも対象となります。

 以上により、小学校就学前の子を養育する労働者から、ケース(1)、(2)のような申し出があった場合は、対象外とすることができる人(※)を除いて、休暇の取得を認めなければなりません。
 (※)子の看護休暇の対象外とできる人


 ■日々雇われる者
 ■労使協定の締結により適用を除外できる以下の労働者
    (ア)入社6ヵ月未満の者
    (イ)1週間の所定労働日数が2日以下の者
 
 
 
●ケース(3)
 社員から要介護状態にある同居の父親の通院に付き添うため、1日だけ介護休暇を取りたいという申し出があった場合

●ケース(4)
 介護休業を規定上限の93日間すでに取得していた社員から、介護休業の対象となった母親が介護施設に入所することになるので、その手続などのために2日間介護休暇を取りたいという申し出があった場合


 〔 ●ケース(3)介護休暇の取得事由 〕
 要介護状態にある家族の介護や世話を行うための休暇(介護休暇)については、対象となる家族が1人の場合は1年に5日まで、2人以上の場合は10日まで取得することができます。「世話」の範囲には、通院などの付添いや介護サービスの提供を受けるために必要な手続の代行も含まれます。

 〔 ●ケース(4)介護休業との関係 〕
 介護休暇は、まとまった期間の休業をするほどでもない介護や世話を行う場合を想定したもので、従来の「介護休業」とは別に取ることができます。したがって、同一の対象家族について、介護休業を規定の限度いっぱいに取得していても、「介護休暇」を上限日数(原則5日)まで取っていない限り、取得可能な日数の範囲で取ることができます。

改正育児・介護休業法に創設された介護休暇は、常時雇用する労働者が100人以下の企業では、平成24年7月1日から義務づけられます。また、介護休暇の対象外とすることができる労働者については、子の看護休暇と同じ範囲となっています。

育児休業の申し出  -育児・介護休業法を守っていますか

         (ケース別チェック)

 仕事と子育てや介護との両立を支援する制度を定めた「育児・介護休業法」が改正され、その主要な部分が今年6月30日から施行されています。
 育児・介護休業などをめぐっては、平成21年度に各都道府県労働局の雇用均等室に寄せられた相談は約73,500件で、前年度より約22,300件も増加しています。法改正によって紛争解決援助制度も創設されるなど相談件数は今後も増える見通しです。
 改正された育児・介護休業法をもとに、ケース別にどのような対応が正しいのか、今号からシリーズでもう一度チェックしてみることにします。

◆ケース1◆
 育児休業から職場復帰し、1歳未満の子を養育する正社員から、保育所の都合により当初予定していた保育所に入所できなくなったので、新たに別の認可保育所に入所申請を行ったが当面入所できないため、育児休業を再度取得したいという申し出があった場合

◆ケース2◆
 1歳未満の子と同居している夫が失業中のため、主に夫が養育できる状況にある女性正社員から育児休業の申し出があった場合

◆ケース3◆
 子が1歳に達したら妻が職場復帰するので、1歳の誕生日から1ヵ月間、妻に代わって育児休業をしたいと男性正社員から申し出があった場合

◆ケース1◆
 再取得要件の見直し
 従来、育児休業の再取得の申し出は次の特別な事情がない限り認めなくてもよいとされていました。
 (1)配偶者が死亡したとき
 (2)配偶者がケガ、病気等により子の養育が困難となったとき
 (3)離婚等により配偶者が子と同居しないこととなったとき 等

 今回の改正により、育児休業の申し出に係る子について、保育所における保育の実施を希望し申込みを行っているが、当面その実施が行われない場合が、育児休業の再度の取得が認められる「特別な事情」として追加されました。

◆ケース2◆
 配偶者が専業主婦(夫)の適用除外規定の廃止
 配偶者が専業主婦(夫)であったり、育児休業中である場合など、常態として育児休業に係る子を養育することができる配偶者がいる労働者については、労使協定によっても適用を除外することができなくなりました。

◆ケース3◆
 「パパ・ママ育休プラス」の創設 
 父母がともに育児休業を取得する場合は、子が1歳2ヵ月まで休業を取得することができるようになりました。ただし父・母それぞれの育児休業期間(母親の場合は出生日以後の産前・産後休業期間を含む)は、これまでどおリ最長で1年間です。


 以上から、1歳未満の子を養育する労働者からケース①~③のような申し出があった場合は、適用除外(※)となる人を除いて、育児休業の(再)取得を認めなければなりません。(いずれのケースについても、常時雇用する労働者が100人以下の企業でも法律が適用されます)


(※)育児休業の適用を除外できる人
  ■日々雇われる者
  ■一定の要件を満たさない有期契約労働者
  ■労使協定の締結により適用を除外できる以下の労働者
   (ア)入社1年未満の者
   (イ)申し出の日から1年以内に雇用関係の終了が明らかな者
   (ウ)1週間の所定労働日数が2日以下の者

育児・介護雇用安定等助成金

【両立支援レベルアップ助成金】の一部が拡充されました 

育児・介護雇用安定等助成金(両立支援レベルアップ助成金)のうち、子を養育する労働者のための短時間勤務制度を設け、利用者が生じたときに対象となる「子育て期の短時間勤務支援コース」において、中小企業事業主に対する助成額の引き上げなどの変更がありました。
 これは、従来の「中小企業子育て支援助成金」のうち、短時間勤務制度を設け、その制度を利用させた中小企業事業主に対する助成が平成22年4月1日から廃止されたことに伴う措置です。

◆「子育て期の短時間勤務支援コース」の内容◆
1.事業主の規模の区分
 区分が、大規模・中規模・小規模事業主の3区分に増えました。
事業主の規模が3区分に増


2.受給要件
 以下のアおよびイの両方を満たしていることが必要です。

 ア.少なくとも3歳に達するまでの子(中規模事業主または大規模事業主については少なくとも小学校就学の始期に達するまでの子)を養育する労働者が利用できる短時間勤務制度を労働協約または就業規則により制度化していること     なお、複数の事業所を有する事業主にあっては、すべての事業所において制度化している事業主であること
 イ.雇用保険の被保険者として雇用する、小学校第3学年修了までの子を養育する労働者であって、短時間勤務制度の利用を希望した労働者に連続して6ヵ月以上利用させたこと
  このほか、支給対象労働者を、

   ①短時間勤務制度利用開始時、

   ②同制度を連続して6ヵ月以上利用した日の翌日から1ヵ月以上、

   ③助成金の支給申請日、

  のいずれにおいても雇用保険の被保険者として雇用していること、などの要件もあります。

3.受給できる額
 中規模・小規模事業主に対する助成額が引き上げられました。
両立支援受給額変更


*2人目以降の支給対象労働者は、最初の支給対象労働者が生じた日の翌日から5年以内に生じた場合に限られます。
*1事業主当たり、延べ10人(小規模事業主は5人)までの支給となります。

中小企業緊急雇用安定助成金がスタート

雇用の維持に努める中小事業主を支援

 現在の厳しい経営環境下において、従業員の解雇を避け雇用維持の努力を続ける中小企業事業主を支援するため昨年12月に「中小企業緊急雇用安定助成金」がスタートし、その後要件等が緩和・拡充されています。今号ではその概要をお知らせします。

中小企業緊急雇用安定助成金制度とは
 この制度は、世界的な金融危機や景気の変動などの経済上の理由による企業収益の悪化から、生産量が減少し、事業活動の縮小を余儀なくされた中小企業事業主か、その雇用する労働者を一時的に休業、教育訓練または出向をさせた場合に、休業、教育訓練または出向に係る手当もしくは賃金等の一部が助成される制度です。

景気の変動などに伴う経済上の理由とは
 景気の変動及び産業構造の変化並びに地域経済の衰退、競合する製品・サービス(輸入を含む)の出現、消費者物価、外貨為替その他の価格の変動等の経済事情の変化をさしますので、以下に掲げる理由等による事業活動の停止または縮小は本助成金の支給対象とはなりません。

1.例年繰り返される季節的変動によるもの
2.事故または災害により施設または設備が被害を受けたことによるもの
3.法令違反もしくは不法行為またはそれらの疑いによる行政処分または司法処分によって事業活動の全部または一部の停止を命じられたことによるもの(事業主が自主的に行うものを含む。)

事業活動の縮小とは
 本助成金の支給を受ける前提となる「事業活動の縮小」とは、以下の要件を満たしている必要があります。

1.売上高または生産量等の事業活動を示す指標の最近3ヵ月の月平均値がその直前3ヵ月または前年同期と比較して減少していること。
2.前期決算等の経常利益が赤字であること。(ただし、1において、生産量が5%以上減少している場合は除かれます。)

中小企業事業主とは
本助成金における中小企業事業主とは、以下の表に該当する事業主をいいます。
中小企業とは


支給対象となる休業、教育訓練及び出向とは

《休 業》

1.事業主が自ら指定した対象期間内(1年間)に行われるものであること。
2.所定労働日の全1日にわたるものまたは所定労働時間内に当該事業所における対象被保険者等全員について一斉に1時間以上行われるものであること。(平成21年2月6日から当面の期間にあっては、当該事業所における対象被保険者等毎に1時間以上行われる休業についても助成の対象となります。)
3.休業に係る手当の支払いが労働基準法第26条の規定に違反していないものであること。
4.労使間の協定による休業であること。

《教育訓練》

1.事業主が自ら指定した対象期間内(1年間)に行われるものであること。
2.所定労働日の所定労働時間に全1日にわたり行われるものであること。
3.就業規則等に基づいて通常行われる教育訓練ではないこと。
4.労使間の協定による教育訓練であること。
5.教育訓練実施日に支払われた賃金の額が、労働日に通常支払われる賃金の額に0.6を乗じて得た額以上であること。

《出 向》

1.事業主が自ら指定した対象期間内(1年間)に開始されるものであること。
2.出向期間が3ヵ月以上で1年以内であって出向元に復帰するものであること。
3.出向労働者に出向前に支払っていた賃金とおおむね同じ額の賃金を支払うものであること。
4.労使間の協定によるものであること。
5.出向労働者の同意を得たものであること。その他

支給を受けることのできる額
《休業及び教育訓練の場合》
 休業手当または賃金に相当する額として厚生労働大臣の定める方法により算定した額の5分の4(上限あり)。教育訓練を実施した場合は、訓練費として1人1日当たり6,000円を加算。

《出向の場合》
 出向元事業主の負担額(出向元事業主の負担額が、出向前の通常賃金の2分の1を超える時は2分の1が限度となります。)の5分の4(上限あり)。

支給限度日数
 休業及び教育訓練を実施する場合は、対象期間内に実施した休業及び教育訓練が、出向を実施する場合は、対象期間内に開始した出向が支給対象となり、上記の額の支給を受けることができます。
 ただし、休業及び教育訓練を実施する場合、3年間で300日(最初の1年間は対象被保険者×200日分)が限度となりますので、これを超える休業及び教育訓練については支給の対象となりません。

厳しい外部環境下のモチベーション向上 ・・・職場のコミュニケーション

★厳しい外部環境の中でのモチベーション向上をどう考えるか
 前回まで様々な角度から「職場内のモチベーション向上」について取り上げましたが、外に目を向けると、世界経済は正に不安定な状態にあり、こんな厳しい業績の中で個々のモチベーションなんて上げようがない」という声も聞かれます。
 こうした厳しい外部環境の中でどのようにモチベーションを上げればよいのでしょうか。
 80年代・90年代の企業のあり方は、アメリカを中心に正に競争戦略の時代でした。つまり「自社の強みを明確化し、それをもって他社の弱みを叩き、勝つことで生き残っていく」という考え方です。
 日本においても多くの企業が「強み・弱み」「機会・脅威」を洗い出していました。特に「コア・コンピタンス(客観的判断による圧倒的強み)」という概念が出てからは、更に「表出された明確な強み探し」に拍車がかかりました。
  ところが、ここ数年、過去にないほど変化が激しく混沌とした経済状況の中で、持続可能なコア・コンピタンスなど、ほとんどの企業が見出せなくなりはじめました。強みがわからなければ競争戦略の構築もままならず、従業員のモチベーションも低下します。

★ポジティブ・コアという概念
 実は、アメリカのサブプライム・ローン問題が発生するかなり前から、組織開発の世界では、既に競争戦略をベースにしたマネジメントの限界に気づき、かわりに「ポジティブ・コア」という概念が言われるようになりました。簡単に言うと、「過去に強みを生み出すに至ったその源泉]あるいは「今後、我社の強みを生み出すためのその源泉」といった意味です。
 ある会社は、かつて他社に真似のできない『顧客買上傾向データ分析システム』を作り上げ、それをコア・コンピタンスとして業績を向上させました。
 しかし、今では同程度のシステムはライバル達も導入し差別化にならなくなりました。そこで、「我社のポジティブ・コア」を徹底的に究明してみることにしたのです。つまり、何故、他社に先駆けて、あれほどのデータ処理システムを構築できたか、その「源泉」を探ったのです。
 何時間もの討議の中で、一人の幹部から「あの時は本気でお客様のこと知りたいと思っていたよな。だって俺達はお客様のこと何もわかっていなかったのだから。」という言葉が出てきました。
 おわかりでしょうか。この会社においては、「自分達はお客様を理解していない。だからこそ知りたい。」という強い気持ちを全従業員が持っていました。これこそがポジティブ・コアだったのです。だからこそ、過去において、高額な先行投資を行い、部門の縦割意識を乗り越え、素晴らしいデータ処理システムを構築できたわけです。
 その会社は自分達のポジティブ・コアを理解できたことで、現状で足りないもの、障害になっているもの、解決のステップを次々と明確にしていきました。また、そうした自分達のポジティブ・コアを全員に再認識させることで、従業員のモチベーションも向上させていきました。
 厳しいこの時代だからこそ、かつての好調期を振返り、「そもそも自分達の強みの源泉はなんだったのか」を探すことが、間違いなくモチベーションの源泉となるはずです。それは組織においても個人においても必要なことなのです。

■組織内ストロークとは・・ 職場のコミュニケーション

組織内ストロークとは

ストロークの効用
 アメリカであった話ですが、ある若い母親が赤ん坊を育てる間中ヘッドホンステレオを聴いており、その子がどのような行動をとっても褒めも叱りもしなかったそうです。
 その結果、その子は知能だけでなく体も成長がとまってしまったそうです。医師達は「ストローク欠乏によって、自分の存在が世の中に必要とされていないと心が判断してしまった」と結論付けました。
 最近、組織内のストローク(相手の存在や価値を認める・もしくは否定するための言動や働きかけ)が足りない状況が増えていると言われています。
 ある企業研修で講師が開始5分前にスタートできたことに対し、「皆さんは素晴らしい。リソースの申でも最も重要な時間を大切にしていますね。」と伝えたところ、参加者たちはその後見違えるほど行動が変わり集中力も持続するようになったそうです。
 普段上司から褒められることがないため、時間を当たり前に守っただけで講師に褒められたことが嬉しかったようだと話していました。

企業においてストロークが何故出なくなっているのか
 実は、多くの企業でストロークの効用に気づいていながらも、互いに「褒める」「叱る」といった行為がどんどん減っているようです。理由として「ギリギリの人数で仕事を行うために話す余裕がない」「メールのやり取りが増えて直接の接点がない」といった環境変化もありますが、より根深い要因として2つ考えられます。
 ひとつには、厳しさを増す経営環境で、成果に対する期待値が跳ね上がっていることです。こんなことはやれて当たり前だ」と思ってしまうと、「褒める」というストロークが出なくなってしまいます。あるいは逆に「こんな高い目標はできなくても仕方がない」と思うことで、「叱る」というストロークも出なくなる場合もあるでしょう。
 二つ目は、客観性や論理性を重んじようとする風潮です。ストロークとは、突き詰めれば自分が相手に対して感じた主観をぶつけることです。この人の行為は客観的に見てどう評価すべきか」と悩んでしまうと、その瞬間の「生きたストローク」は出なくなってしまいます。

どうすれば相互ストロークの働く職場になるか
 では、どのようにしたらストロークの働く職場風土になるのでしょうか。
 マネジメント上の解決策としては、「当たり前意識」の弊害から抜け出すために、最終目標の手前の「置石目標」を設定することです。
 例えば、「半期で五千万円の目標がある。では、まず今月新規のお客さん5人と会おうね」と、その人が頑張れば達成できる中間目標を定め、その達成度に対してプラスもしくはマイナスのストロークをしっかりと与える習慣をつけるのです。
 コミュニケーション上の解決策としては、会話に「私(僕)は~と思うよ。」と主語を置く習慣をつけることです。主観を出しあう環境を作ることで、ストロークを出しやすくなります。管理職がよくやる過ちは、一般化した意見を伝えようとして、結果的に相手に響かないことなのです。
 相互ストロークのない会社は、いくらルールや仕組みを作ってもコンプライアンスの問題は出てしまいます。また、本当のノウハウも共有することができません。
 コーチングスキルとしての「褒め方」「叱り方」といったテクニックを学ぶのもいいですが、それ以前に、何より互いに周りの人を興味を特って見ているかどうかが、最も大切なのです。その上で、勇気を持って自分の主観としての「褒める」「叱る」といったオーソドックスなストロークにチャレンジしてみることです。

総合的思考による知識共有化システム

職場のコミュニケーション

 今回は最新の組織活性化の理論についてご紹介します。
 私たちは職場の活性化を考える時、若手へのOJT強化や管理職のリーダーシップ研修といった、個人の能力開発を行うか、「業務フローの単純化」「ナレッジ共有システムの構築」といった仕組みやルールの改善に意識がいきがちです。しかしそれらは「部分の変革」にすぎず、組織そのものの本質的変革にはつながりません。
 トロント大学のロジャーマーティン氏が、2007年の著書『The opposable mind』の中で、様々な組織を研究した結果、「優れた組織には Integrative thinker knowledge system(統合的思考による知識共有化システム)が働いている」という結論に達したと述べています。
 ロジャーマーティン氏は、部分としてではなく組織全体として、「統合的思考による知識共有化システム」の必要性を述べています。このシ
ステムは、3つのステップ「Stance」「Tools」「Experience」で意思決定をしていくとともに、そのステップを組織の中で絶えずループ(見直し)させていくものです。

第1ステップ‐Stance
 「私(私達)はどこに立っているのか」「何のための存在か」という、いわば組織の存在理由を明確にするステップであり、すべての組織活動のスタートであり、働く人のモチベーションの源泉になります。特にM&Aや新規事業戦略の実行において、多くの企業がここを不明確にしたまま数々の施策を打っては失敗しています。
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第ニステップ-Tools
 Toolsとはここでは「道具」「関数」「フレームワーク」といった意味で使われています。つまり、明確になったStanceを生かしていくために、どんなやり方をするのかを考えるのがこのステップです。業務のやり方やシステムのみならず、「我々はどのようなみかたをするか」というのも、組織における「道具」のひとつです。

第3ステツプ-Experience
 Toolsを使った成果を「経験」「知識」として、組織と個人に共有化し定着させていくステップです。これにより確信が深まり、独創性が育ちます。このステップを疎かにすると組織内にノウハウは溜まらず、「人財」も育たなくなります。

 以上のように意思決定のステップは第1から第3へ進みますが、同時にいつも前ステップを見直していくことも大事です。
 特に第1ステップの見直しを忘れる組織は多いようです。最もまずいのは、第ニステップ(Tools)だけしか考えていない組織です。一見効率的ですが、組織としてはモチベーションも帰属意識も低下し、かつ経験も蓄積されないために、長い目で見ると、確実に成果は低下していくのです。

モチベーションの分析

モチベーションの分析(動機付け理論と欲)
  職場のコミュニケーション

【マズローの欲求5段階説】
 徹夜勤務に近い日々を送りながらもモチベーション高く仕事をしている人もいれば、少しの残業で健康や神経を害してしまう人もいます。一体、仕事において「やる気が出る」と「やる気を無くす」の分岐点はどこにあるのでしょうか?
 職場のモチベーションを考える上でよく引き合いに出されるものに、マズローの「欲求五段階説」というのがあります。下図のように、人間には五段階の欲求があり、下位から順に充足していくというものです。
 この説に当てはめると、今の時代は既に最上級の第五段階「自己実現の欲求」まで満たされているのでは、という意見があります。昔に比べれば転職に抵抗は無く、あるいは企業内にあっても、実力とやる気があれば年功序列に関係なく仕事をやらせてくれる企業も増えている時代だからです。
 それなのに何故これほどモチベーションの問題が話題になるのでしょうか?
マズローの欲求5段階

【満たされていない欲求は何か】
 実は現代において、ひとつだけ過去よりも弱まっている段階があります。第三段階「集団・帰属の欲求」です。現在ほとんどの職場では一人に一台ずつパソコンがあてがわれています。命令・報告・連絡は下手をするとメールだけですんでしまいます。笑い話のようですが、隣の席の先輩に「明日急用で休みます」とメールで送るという実話もあります。こんな状況で、集団・帰属の欲求が満たされるとは到底思えません。
 欲求五段階説では「下段階の欲求が満たされて初めて次の段階の欲求が生まれる」と言われます。つまり、先ほど「自己実現の欲求」は現代において一見満たされていると書きましたが、途中の第三段階が不完全な以上、これは「偽りの満足」なのかもしれません。

【ハーツバーグの動機付け理論】
 モチベーションを考える上でもうひとつ大切な考え方にハーツバーグの「動機付け理論」というものがあります。
 賃金・労働条件・作業環境などは「もし、それがないと不満の原因をなすものだが、あったからといって動機付けにはならないもの」であるとして「衛生要因」と名づけ、仕事そのものの内容や質、及び達成に対する内外的承認を「無限に積極的態度を引き出すことができるもの」として「動機付け要因」と名づけました。
 この理論をマズローの欲求五段階説と重ね合わせると、ちょうど「動機付け要因」と「衛生要因」の分かれ目が第三段階「集団・帰属の欲求」になります。つまり動機付け要因に昇格するためにも、集団・帰属の欲求を満たすことが避けられないのです。

【理論を職場に当てはめる】
 うちの職場は生活に十分な給与を払っているし、やる気のある人間にはどんどん達成感のある仕事をやらせている。それなのに何故全体のモチベーションが上がらないんだ?」と言う経営者や管理職の方がいらっしゃいます。
 この考え方には大事なものが抜けています。職場における「人と人との絆」です。
 実際に、相手に求めていることをメールや書類ではなく、一人ひとりに向かい合って目を見て伝えることが大切なのです。最近、社員旅打や運動会を復活させる動きも出ています。OA化か進んだ今だからこそ、「集団・帰属の欲求」に応える努力が必要なのではないでしょうか。

現代組織のモチベーションとは

職場のコミュニケーション

モチベーションを考える上での前提
 今回からは、「職場のモチベーション」について取り上げていきます。
 「マネジメントが安易に口にしてはいけない三悪テーマ」として、「エデュケーション(人材教育)」「コミュニケーション」「モチベーション」がありますが、実は、現代の組織におけるモチベーションとは、単に「個人のやる気をあげる」ということではなく、様々な要素が含まれているのです。そこを明確にするために、「組織活性化の焦点」の歴史的変遷から探ります。

日本における組織活性マネジメントの焦点の変遷とモチベーションについて
1.「仕組み」への焦点
 終戦後の日本では「精神論だけでは無理だ」という気づきから、「仕組み」や「制度」が主に欧米より導入されました。
 当時のコンサルタントは「改善屋」と呼ばれ、生産ラインの「動作研究」や「時間研究」を行い、より生産性をあげるためのシステム作りを行いました。

2.「個人」への焦点
 高度成長期、拡大する組織の機能分化を行う上で、一人が面倒を見られるのは六~七人」という統制の原則から、「組織全体を活性化するには、集団を統制する個人(リーダー)のやる気を伸ばすことが大事」となりました。軍隊型研修なども流行りました。

3.「集団・組織」への焦点
 個人をいかに鍛えても、結局は集団の規範や風土に影響され、元の個人に戻ってしまうことがわかりました。その反省から、集団や組織自体の「物的環境」と「心的環境」をいかに変えるかという考えに焦点が当たり始めました。

4.「戦略」への焦点
 第一次オイルショック後、多くの市場が縮小し始めました。右肩上がりの時代は内部のことだけ考えていればよかったのですが、この頃から、「外部環境(市場・競合)を見たときにどのように活性化するのか」という、外部を見据えた戦略的なマネジメントに焦点が当たり始めたのです。

5.「モチベーション」「コミュニケーショ ン」「リーダーシップ」への焦点
 そして、いよいよここで現代のマネジメントの考え方です。
 いくら外部環境を見てマネジメントをしても、従来のやり方で今まで以上の成果を挙げようとすると組織内の負荷ばかり増え、結果的に長時間労働やメンタルヘルスの問題が出てくることに気づき始めました。
 そのため、ここで「個人と組織のモチベーション・コミュニケーション・リーダーシップをどのようにマネジメントするか」という観点が出てきたのです。

現代の職場モチベーションを考える上でのポイント
 さて、ここで大切なのは、上記のマネジメントの変遷を見ればわかるように、現代における「モチベーション」とは、1の「仕組み」から4の「戦略」までの全ての要素を踏まえた上に成り立っているということです。その意味で、2の高度成長期における「個人のやる気」への焦点とは全く違っています。
 したがって、職場のモチベーションを考えるとき、「今職場にはどのような仕組みがあるのか」「集団・組織はどのような構造になっており、どんな風土が存在しているのか」「市場や競合はどのような動きなのか」を総括的に考えた上で切り込む必要があります。
 しかし残念ながら、未だに個人に対する「飴と鞭」だけでモチベーションを向上させようとする職場やリーダーが多いのも事実です。
 そうした点を踏まえて、次回よりモチベーション向上のための理論と実際の行動について掘り下げていきます。

生産的な会議とは

職場のコミュニケーション

生産的な会議とは

ダメな会議とは何か
 メールという通信手段が発達した昨今、本来であれば、重要性や緊急性が伝わりやすいフェイス・トウ・フェイスの場である会議はますます犬切になっているはずてす。
 ところが、うちの会社の会議は意味無いよ!」という声があがっているのをときどき耳にします。日産のゴーン社長も、改革の初期にまず生産性の低い会議の変革に取り掛かったといいます。
 では、「ダメな会議」のモデルとは、どのようなものを言うのでしよう。少なくとも以下のような会議をやっていたら赤信号です。

①アウトプット(成果)を明確にしていない会議 → 何時までに何の結論を出すのか
②参加者が準備をしてこない会議 → 当事者意識の無い会議は時間の無駄です
③結局、トップ(もしくは決まった人)が結論を出す会議 → 本気で納得する人はいません
④報告のための会議 → メールで事足ります
⑤数字しか言わない会議 → 数字の背景にあるものこそ共有が必要です
⑥発言しない人がいる、もしくは全員が一言ずつしか話さない会議 → 参加者は、その時間に本来の業務をやっていたほうがいいです


生産的な会議をする為には・・・
 前段のような「ダメな会議」は論外として、生産的な会議をするためにはどうしたらよいでしょうか?
 企業における会議とは、良い結論を出すためにやるわけではありません。その会議の結論に対して、参加者全員が真剣に打ち込めるような討議をすることが目的です。ところが、ともするとその目的を忘れ、「良い結論=妥当な落としどころ」を出すために、参加者の意見の共通項を探しあう会議が実に多いようです。
 しかし、「10ある意見のうちの3つについては共通だからこれで決めよう」となったとしても、残りの7つについて納得しないままであれば、決定後に本気で取り組めません。

 生産的会議のスタートラインは、参加者の意見の相違点を明確にすることなのです。そのためには、それぞれの主観を言い切ることが必要です。マネジメントに正解はないからこそ「客観的に見てどうか」を問うより前に、まず個々人の主観の表明が大事になります。
 本気で主観を言い切ると、一見同じように思えた意見であっても微妙な差異が見えてきます。この微妙な差異がどこから出てきているかをとことん話し合うことこそが、生産的会議のポイントなのです。
 差異を話し合っているうちに、自分と違う考えを持つ相手の主観が立脚するものが見え始めます。「そういう意味で貴方は違う意見を持っていたのか」と理解した瞬間にこちらの自己概念も広がり、初めて本当のコンセンサス(全員の合意)の手がかりが見えるのです。

 ユダヤ人の教えに「全員が一致ならその会議はやり直せ」というのがあります。簡単に意見が揃った会議は、その結論も、実行段階での本気さも、どこか問題をはらんでいることが多くあります。これは、生産的会議に葛藤はあって当たり前ということを暗示した教えなのです。

 ①自分の主観を言い切ること、
 ②相手の主観をしっかり聴くこと、
 ③互いの微妙な差異を究明すること、
 ④新しい見方に立脚すること・・・

これこそが生産的会議を実施するコツと言えます。

コミュニケーションの世代間ギャップ

世代間のコミュニケーション

コミュニケーションのジェネレーションギャップ
 古代エジプトの壁画に「近頃の若い者は何を考えているかわからん」と書かれているそうです。私たち人類は、何千年も前からジェネレーションギャップ(世代による価値観などの違い)を感じ続けているのですから、ほかの世代とのコミュニケーションを改善することはそう簡単にできる話ではないでしょう。
 しかし、まちがっても、無理をして相手世代に合わせたコミュニケーションにしないことです。そんなことは簡単に見抜かれ、かえって距離が遠のくばかりです。そのためには、忍耐強くコミュニケーションを実践し、互いの目標観を揃えることにトライしてみることです。

自分より若い世代とのコミュニケーションをとるポイント
 今の若い世代は、間違いなくコミュニケーションが下手になっています。「下手になった」というより「コミュニケーションの取り方が変化している」と言ったほうが正しいかもしれません。
 彼らが悪いわけではなく、取り巻く環境が激変しているのです。兄弟が少なくなり、子供の時から個室を与えられ、携帯電話を持ち歩いていれば、昔のように顔と顔を突き合わせて傷つけたり傷つけられたりしながらコミュニケーションを学ぶ体験が圧倒的に少なくなるのは当然です。
 その反面、最近の若い方のコミュニケーション上の特徴として、大きく二つのポイントがあります。ひとつは、前述したような環境で育った反動か、意外に人と人とのつながりを求めているのです。特に彼らは自分の話を相手に聴いてもらいたがっています。したがって上の世代は、一度若い世代の話(というよりは気持ち)を十分に聴いてみることです。その際大切なことは、途中での意見や忠告は我慢することです。彼らは「この人は自分の話をしっかり聴いてくれた」と認識してはじめてこちらの話も聴き始めます。
 もうひとつのポイントとして、豊かな時代に育った彼らは一見《生活感》がない代わりに、「自分や自分の仕事が世の中にどのように役立っているのか?」という、社会性や将来に向けてのビジョンに興味が強いというのも特徴です。
 彼らに対して業績や作業の話だけではなく、自分自身の言葉として社会や人生についてのビジョンを聴かせてあげることです。個人差はあるでしょうが、意外なほど反応があるのではないでしょうか。

自分より上の世代とのコミュニケーションをとるポイント
 逆に若手から上の世代に対しては、「下の話を理解しようとしない。何か新しいことをやろうとするといつも上司は抵抗勢力になる」という意見があります。
 こんな例があります。ある若手人事担当者が、上司に「職場のモチベーションを上げるために研修をやりたい」と進言しましたが、上司から「そんなのは今までもやったことがない。本年度の目標達成に向けて新たな設備投資をしているのだから、研修に回す予算なんかない。」と断られました。よくある話ですが、実はここに重要なコミュニケーションギャッププがあります。
 つまり、若手人事担当者は組織のアウトプット(成果)になんら触れぬまま、スループット(モチベーション向上)を挙げているのに対し、上司はアウトプット(本年度目標達成)をべースにスループット(新たな設備投資への予算の配分)を述べているのです。
 この場合、若手人事担当者はまずアウトプット、例えば「本年度目標を達成するために社員の生産性向上が必要」「我が社の社会的信用を考えてのメンタルヘルス対策」などを述べた上で、モチベーション向上策を訴えるのが効果的なやり方です。
 上の世代(上司)は当然、部下以上に全体を見ています。したがって、若手から上司とのコミュニケーションを図る時には「アウトプットから話す」というのが最も大切なポイントです。

職場のコミュニケーション 「聴く」ための力をつける

「聴く」という行為の力
 職場でのコミュニケーションにおいては、「伝えること」よりも「聴くこと」のほうが重要な局面が増えています。特に最近はメンタルヘルスの問題もあり、単に聞き流す「聞く」ではなく、いわゆる『積極的傾聴法(Active listening)』の必要性が言われるようになってきました。積極的傾聴法とは、「カウンセリングの父」といわれるカール・ロジャースが提唱したもので、相手の言葉をただ受動的に聞くのではなく、話し手の言葉の中にある事実と感情を積極的につかみ、その本質を明確にしてあげることで、話し手が自分自身で問題解決できるように援助することです。 仕事がハードなある企業で、ひとりの課長の部署だけは部下が辞めていないことがありました。本人と話してみると、正に、この積極的傾聴法を無意識にやっていたのです。
 彼は次のように言っていました。「部下が辞めたいと言ってきた時は、とにかく5分間、徹底的に相手の話を聴きます。その間、一切アドバイスはしません。もちろん『甘ったれるな』と叱ったりもしません。どんなに後ろ向きの不平を言っていても、ひたすら彼の言葉と感情を聴き切るのです。すると不思議なもので、最後のほうになると自分で『でも私が頑張るしかないですもんね』などと前向きなことを言い出すのです。」…これこそが積極的傾聴法なのです。 もちろん、彼はなんでも部下の言いなりになるような軟弱なリーダーではありません。緊急性の高い時には部下を怒鳴り飛ばすこともあるそうです。しかし、時と場合によって積極的傾聴法も使い分けられる、これこそが理想的な職場のコミュニケーションなのです。

「聴いているふり」が一番いけない
 私たちは、ともすると「聴く」ということを受動的行動と勘違いしてしまいます。会議などで何も発言しない人を注意すると、「私は今、聞くことに集中しています。」と言い返す人がいます。あるいは、部下からの相談事を書類やパソコンを見たまま聞いている上司がいます。これらの行為は、いわゆる「聞く」であり、ただ単に耳に入ってくる言葉を受け取っているに過ぎません。「聴く」というのは、相手と正対し、「なぜ、あなたはそう思ったの? それは○○という意味なの?」と、一歩突っ込んで事実と感情を明確化していくことなのです。忙しくて「聴いたふり」をするくらいなら、「悪い、今時間がないので、後で聴くよ。」と明確に断ったほうが、よほど誠実味かあります。

傾聴力の鍛え方
 聴く力をつける一般的な卜レーニング方法として、3つのステップを踏むことが有効です。
1、相手の言うことをオウム返ししてみる。
  話し手の言うことをテープレコーダーのように返してみます。いかに自分が人の話を、自分なりにアレンジして聴いていたかが分かります。
2、相手の言うことを明確化してみる。
  話し手の話の内容に意見は挟まずに、多面的、多角的に質問を投げがけながら、問題状況を明確にしていきます。
3、相手の言うことを明確化しながら共感的に理解していく。
  上記2にプラスして、相手の感情に対し「それは嬉しいですよね。」「そんなことをされたら悲しいですよね。」などと、共感するように答えてあげます。しかし、それ以上にこちらの意見を押し付けることはしません。

職場のコミュニケーション 「原体験」からの言葉を伝える

言葉の力と限界

 「思い」を言葉にすることは非常に大切なことです。漠然とした考えであっても、それに適した言葉を探し、人に伝える過程で概念化し明確化することができます。それこそが言葉の力です。
 特にリーダーであれば、ビジョンと問題状況を明確に人に伝えることこそが最初の仕事と言っても過言ではないでしょう。
 半面、人の行動が他人に及ぼす影響では、見た目などの視覚情報が55%、話し方が38%であり、話の内容などの言語情報はたった7%の割合であると言われています(ただし、この説は心理学者アルバート・メラビアンが提唱した説をかなり拡大解釈したものと言われています)。
 これは、人間の「納得のメカニズム」が「論理的受容」(内容に矛盾は無く論理的には納得できる)だけではなく、「心理的受容」(内容だけでなく表現や態度も含めて感情が伝わり、気持ちとして納得できる)との両方が揃って初めて機能するからです。そして、ともすると「心理的受容」のほうの影響が大きいことが現実には多いのです。こうした面が「言葉の限界」とされる部分だと思われます。
 ですから、「職場の朝の挨拶が大事」というのは、決して礼儀面だけのことではないのです。朝一番で、言葉以外から読み取れる職場仲間の情報をつかむ絶好の方法だからです。
 以上のような言葉の大きな力と限界を理解したうえで、それでもかなり部分を言葉に頼ったコミュニケーションを実施しなければいけないのも事実なのです。

言葉(記号)の限界を超えるためには『原体験』のやりとりが大切

 では、言葉を使ってより良いコミュニケーションをしていく方法とはどんなものでしょうか。
 まず大切なことは、言葉というのは「記号」に過ぎないということを大前提として考えておくことです。
 我々は同じ国の言葉を話せれば正しいコミュニケーションがとれると思いがちです。しかし、わかりやすい例で言えば、「戦争」という言葉を聴いた時、直接戦争を経験した人、親から戦争の体験を聞いた人、親も戦後生まれでテレビでしか知らない人…それぞれに全くニュアンスが違ってくるはずです。
 つまり、言葉という記号を発するときも受信するときも、それぞれの「原体験」とすり合わせながら、その記号に相応しい自分だけの意味づけを投げ合っているわけです。その意味では、違う言語で話しているのと全く同じことと言えます。
 ですから、大切な話を相手と理解し合いたいと思うのであれば、記号である言葉や数字だけをやり取りしていても意味はないのです。互いにその話に絡んでの原体験を話し、聴くことをしなければなりません。
 例えば、新しい仕事の進め方を話し合う場であれば、自分は仕事によってどのような達成感を感じたいのか、今の仕事の進め方をどんな場面でどう感じてきたのか…、それらを評論家的、第三者的に「こうあるべきだ…」で語るのではなく、自身の体験として語ることが大事です。
 特に「管理職と一般社員」「営業と総務」といった、役割や責任などが異なる関係者の間でのコミュニケーションにおいては、極端に言葉(記号)の意味づけが違っていることがあります。そうした場合に、言葉だけのやり取りをすると、大きな勘違いが生じたり、深刻な感情の行き違いになることが往々にしてあります。
 しかし、ひとつの企業に長くいればいるほど、言葉に対する意味づけは皆同じだと勘違いしてしまうものなのです。
 職場のコミュニケーションにおいては、お互いに原体験をもとに話し、それを聴くように心がけることが大切です。

職場のコミュニケーション コミュニケーション改善の第一歩

コミュニケーションを考える上での前提

 俗に「マネジメントが安易に口にしてはいけない三悪のテーマ」というのがあります。

  • コミュニケーションcommunication
  • モチベーションmotivation
  • エデュケーション(人材教育)education

 「うちの職場(会社)は<モチベーション>が低いのが問題だよ。その原因は<コミュニケーション>不足にある。解決するためには<人材教育>しかないね。」
 このように言えば、もっとものように聞こえます。しかし、実はこの三テーマは組織にとって目的ではなく、手段にすぎません。
 さらに、「この三つができていないこと」ではなく、「この三つがなぜ悪いのか」を考える必要があるのに、三テーマを言った瞬間にすべてがクリアになったような気になってしまうのが問題なのです。
 職場で管理職やリーダーが安易に多用し始めたら要注意です!
 本号から数回にわたって、職場のコミュニケーションについて連載しますが、常に「そもそも何のためにコミュニケーションを良くしたいのか」「コミュニケーションを悪くしている本質的問題とは何なのか」という視点で考えていきます。

コミュニケーションとは何か

 最初に、「コミュニケーションとは何か」について考えます。
 「大辞林第2版(三省堂)」によれば、『コミュニケーションとは、人間が互いに意思・感情・思考を伝達し合うこと。』とあります。
 では、互いに意思・感情・思考を伝達し合うために必要な要素とは何でしょうか。当然、「発信する=話す」と「受信する=聴く」という要素が考えられます。
 しかし、その大前提として最も大切な要素があります。それは「伝えるべきことを自分自身の中に持っているか」ということです。
 ある企業で、定着率をあげるために職場リーダーに対して「コーチング研修」を一生懸命にやっていましたが、一向に改善されないことがありました。
 原因は明確でした。コーチング研修により「発信するスキル」「受信するスキル」は身につけたものの、一番大切な、話す前提としての自分自身のビジョンを明確化すること、聴く前提としての自分自身の問題意識を掘り下げることを一切やっていなかったのです。

コミュニケーション改善のためにまず何をすべきか

 もし、職場でコミュニケーションがもうひとつだと思ったら、最初にやるべきことは、スキル研修ではなく、まず個々人にビジョンを明確化させ、それを話し合わせることです。
 スローガンのようなものではなく、「どのような職場にしていきたいのか」を自分自身の言葉で表現し、周りの同僚や上司などと共有させるのです。
 次に「そのビジョンと現状の間のギャップは何か」という問題を話し合いながら明確にさせるのです。
 できれば、異なる階層や部門間のメンバーを数人のグループにして話し合わせるとさらに良いでしょう。異なる価値観の人と話し合うことで、「自分自身の伝えたいこと」がより明確になるからです。
 一見遠回りのように思われるかもしれませんが、これこそが本質的にコミュニケーションを改善していく第一歩になります。

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