-改正労働基準法のポイント
平成22年4月から施行される改正労働基準法に関しての質疑応答が、このほど厚生労働省から公表されました。法令や通達などで明らかにされていない実務的な部分について具体的な内容が示されていますので、その一部を要約して取り上げます。
★★時間外労働に関する「特別条項付き協定」★★
労使協定で定める時間外労働について、一定の限度時間を超えてさらに時間外労働を行わせる場合には、延長に関する「特別条項」を付けた協定を締結する必要がありますが、今回の法改正にあわせて「時間外労働の限度に関する基準」(限度基準)が改正され、特別条項として明示する項目に、限度時間を超えて働かせる場合の割増賃金率も加えられました。
■改正後の限度基準の適用について
【問】平成22年4月1日から翌年3月31日までを有効期間とする時間外労働協定について、
(1)同協定が平成22年3月30日に締結され、同年3月31日に届出された場合
(2)同協定が平成22年3月30日に締結され、同年4月1日以降に届出された場合
(3)同協定が平成22年4月1日付けで更新された場合
のそれぞれについて、改正後の限度基準が適用されますか?
【答】改正後の限度基準は平成22年4月1日以降に締結または更新された時間外労働協定に適用されます。 したがって、(1)及び(2)については改正後の限度基準は適用されませんが、(3)については改正後の限度基準が適用されることとなります。
■労働条件明示との関係
【問】限度時間を超える時間外労働に係る割増賃金率は、労働基準法(第15条第1項)の規定により、賃金に関する事頑として書面により明示する必要がありますか?
【答】限度時間を超える時間外労働に係る割増賃金率についても書面で明示する必要があります。
★★月60時間を越える時間外労働の割増金賃率★★
今回の改正により、1ヵ月に60時間を超えて時間外労働をさせた場合には、その超えた時間についての割増賃金率は「5割以上」としなければなりません(中小事業主については当面、適用を猶刊。この場合、休日の労働について、いわゆる法定休日(週1回または4週間4日の休日)ではない休日における労働は、時間外労働として「60時間」の算定対象に含める必要があります。
■法定休日が特定されていない場合の算定方法
【問】法定休日が特定されていない場合で、暦週(日~土)のうち休日である日曜日及び土曜日の両方に労働させた場合、割増賃金計算の際にはどちらを法定休日労働として取り扱うことになりますか?
【答】その暦週において後順に位置する土曜日における労働が法定休日労働となります(この場合、日曜日における労働を時間外労働として「60時間」の算定対象に含めます)。
★★代替休暇★★
改正労働基準法では、1ヵ月に60時間を超える時間外労働を行った労働者の意向により、引き上げ分の割増賃金の支払いに代えて、有給の休暇(代替休暇)を与えることもできるようになります(中小事業主については当面、適用を猶予)。
■代替休暇の取得日の決定方法
【問】代替休暇の取得日について、労働者が希望した日を使用者が一方的に変更や拒否をすることは認められますか。取得の方法や取得希望日の変更方法について、労使協定で制限することは可能ですか?
【答】代替休暇を取得するか否かは労働者の判断によるものなので、使用者による一方的な変更等は認められず、取得日の決定等は当然労働者の意向を踏まえたものとなります。代替休暇の取得等の具体的な方法については、労使の話し合いによリ労使協定で定めるものとされています。
★★時間単位年休★★
今回の改正により、労使協定によって、年次有給休暇を時間を単位として与えることができるようになります。
■時間単位年休の時季変更権
【問】時間単位年休に係る時季変更権について、例えば、9時~10時の1時間の請求が行われた場合、これを同一日の13時~14時へ変更し、または翌日の9時~10時に変更することは可能ですか?
【答】時間単位年休についても、事業の正常な運営を妨げる場合は、使用者は請求に係る時季を変更することができますので、質問の変更は可能です。ただし使用者には他の日時を指定すべき義務はありません。
年次有給休暇は、このところの取得率が5割を下回る水準で推移しており、その取得の促進が課題となっています。年次有給休暇制度は、働く人が心身の疲労を回復させるなどの目的のために、まとまった日数の休暇を取得するというのが本来の趣旨です。しかし、仕事と生活の調和を図る意味から、現行の日単位による取得のほかに時間単位による取得の希望もみられるようになりました。
こうしたことを受けて、今回の改正により、年次有給休暇を有効に活用できるよう、時間を単位として与えることができるしくみが新しく設けられました。
■時間単位付与の要件
時間を単位として与える年次有給休暇(時間単位年休)を実施する場合には、あらかじめ事業場において労使協定を締結する必要があります。この労使協定は個々の労働者に対して時間単位による取得を義務づけるものではなく、協定が締結されていれば、労働者が時間単位による取得を請求した場合に、請求した時季に時間単位により年次有給休暇を与えることができるという趣旨のものです。
なお、労使協定の締結によって時間単位年休を実施する場合には、就業規則の作成が義務づけられる一定規模以上の事業場においては、時間単位年休に関する事項を就業規則に記載する必要があります。
■労使協定で定める事項
時間単位年休にかかる労使協定で定める事項は、次の4つがあります。
(1)時間単位年休の対象労働者の範囲
時間単位年休の取得は、事業の正常な運営との調整が考慮されるものであるという観点から、例えば工場で一斉に作業を行うことが必要とされるような業務に従事する労働者にはなじまないことが考えられます。
したがって、労使協定では、時間単位年休の対象労働者の範囲を定めることとされています。ただし年次有給休暇を労働者がどのように利用するかは労働者の自由であることから、例えば育児や介護を行う労働 者に限るなど、利用目的によって時間単位年休の対象労働者の範囲を定めることはできません。
(2)時間単位年休の日数
時間単位で付与できる年次有給休暇の日数は「5日以内」で定めることが必要です。パート労働者など5日に満たない日数の年次有給休暇が比例付与される労働者については、労使協定では、その比例付与される日数の範囲内で定めることになります。
また、前年度から繰り越された年次有給休暇がある場合は、繰越分も含めて5日以内の範囲となります。
(3)時間単位年休1日の時間数
時間単位年休を付与する場合は、何時間で1日分の年次有給休暇に相当するのかを定めておくことが必要です。通常であれば、その労働者の1日の所定労働時間数をもとに定めることになりますが、1時間に満たない端数がある場合はそれを1時間に切り上げなければなりません。例えば1日の所定労働時間数が7時間30分の場合は、「8時間」とします。
また、日によって所定労働時間数が異なる場合には、1年間における1日の平均所定労働時間数をもとに、1年間における総所定労働時間数も決まっていない場合には、所定労働時間数が決まっている期間における1日の平均所定労働時間数をもとに決めることになっています。
(4)1時間以外の時間を単位とする場合の時間数
時間単位年休は、必ずしも「1時間」を単位とする必要はありません。「2時間」や「3時間」といったように、1時間以外の時間を単位として時間単位年休を付与することもできますが、その場合には、労使協定でその時間数を定める必要があります。
ただし、1日の所定労働時間数と同じ、またはこれを上回る時間数を単位とすることはできません。
■「時季変更権」との関係
時間単位年休についても、事業の正常な運営を妨げる場合は、使用者は請求にかかる時季を変更することができます。 しかし、労働者が時間単位による取得を請求した場合に日単位に変更することや、日単位による取得を請求した場合に時間単位に変更することは、時季変更に当たりませんので、認められないことになっています。
■「特別条項付き協定」の割増賃金率
労働基準法では、使用者は労働者に1週40時間、1日8時間を超えて労働させてはならないとしていますが、労使間で時間外労働に関する協定(いわゆる「36協定」)を締結し、これを行政官庁に届け出たときは、1週40時間、1日8時間を超えて働かせることができると定めています。ただし、この協定で定める時間外労働については、告示により一定の限度時間(下表参照)が定められており、その限度時間を超えてさらに時間外労働を行わせる場合には、延長に関する「特別条項」を付けた協定を締結する必要があります。(特別条項付き協定)

特別条項として明示する項目には、延長できる時間数のほかに延長しなければならない特別の事情などかありますが、今回の改正により、限度時間を超えて働かせる場合の割増賃金率も加えられました。
特別条項に盛り込む割増賃金率は、①1日を超え3ヵ月以内の期間、②1年間について限度時間を超えて労働させる期間ごとに定めなければならないこととされています。そして、①及び②の期間の双方について特別条項付き協定を締結する場合には、それぞれ限度時間を超える時間外労働に係る割増賃金率を定めることが必要となります。

なお、この改正内容は、平成22年4月1日以降に特別条項付き協定を締結する場合、もしくは更新する場合に適用されることになっています。
■法定を越える割増賃金率の設定と時間外労働の抑制(努力義務)
時間外労働は、本来臨時的なものとして必要最小限にとどめることが望ましいとされています。そこで、今回の改正では、時間外労働を抑制する観点から、特別条項付き協定において限度時間を超える時間外労働に係る割増賃金率を定めるに当たっては、政令で定める率(25%)を越える率とするように努めなければならないこととされました。
また、特別条項付き協定を締結する場合には、限度時間を超える時間外労働をできる限り短くするように努めなければならないことも付け加えられました。
■「代替休暇とは」
改正労働基準法では、1ヵ月に60時間を超える時間外労働をさせた場合、超えた時間については割増賃金の率が現行の「25%以上」から「50%以上」に引き上げられていますが、労働者の健康を確保する観点から、時間外労働を行った労働者の意向により、この引上げ分の割増賃金の支払いに代えて、有給の休暇(「代替休暇」といいます。)を与えることができる制度も設けられました。
なお、改正法に規定する中小事業主の事業については、当分の間、法定割増賃金率の引上げは適用されませんので、それに伴ってこの代替休暇も適用されないことになっています。
■代替休暇の要件
代替休暇の制度を導入するためには、事業場において事前に代替休暇に間する労使協定を締結する必要があります。労使協定で定める事項は次のとおりです。
(1)代替休暇として与えることができる時間の時間数の算定方法
代替休暇として与えることができる時間数は、1ヵ月について時間外労働が60時間を超えた時間数に、労働者が代替休暇を取得しなかった場合に支払うこととされている割増賃金率(50%以上)と、労働者が代替休暇を取得した場合に支払うこととされる割増賃金率(25%以上)との差に相当する率(換算率)を乗じて算出することになっています。(下を参照)
代替休暇の時間数 =(当月の時間外労働の時間数-60時間)x 換算率
換算率 = 50% - 25% = 25%
〔例〕時間外労働を月76時間行った場合
→(76-60)× 25% = 4 時間(代替休暇の時間数)
(2)代替休暇の単位
代替休暇の単位については、「1日」または「半日」とされており、労使協定では、その一方または両方を定めておくことが必要です。
代替休暇として与えることができる時間として前記(1)で算定された時間数が、労使協定で定めた代替休暇の単位(1日または半日)に達しない場合であっても、代替休暇以外で通常の労働時間の賃金が支払われる休暇があれば、その休暇と代替休暇とを組み合わせて1日または半日とすることができます。なお、今回の改正に盛り込まれた「時間単位の年次有給休暇」を組み合わせて活用することも差し支えないとされています。
(3)代替休暇を与えることができる期間
代替休暇を与えることができる期間は、時間外労働が1ヵ月60時間を超えた算定月の末日の翌日から2ヵ月以内とされていて、労使協定ではこの範囲内で代替休暇を与えることができる期間を定める必要があります。
代替休暇を与えることができる期間として労使協定で1ヵ月を超える期間が定められている場合には、前々月の時間外労働に対応する代替休暇と前月の時間外労働に対応する代替休暇とを組み合わせて、1日または半日の代替休暇として取得することもできます。
なお、代替休暇については、賃金の支払額を早期に確定させる観点から、前記(1)~(3)までの事項以外でも、労働者の意向を踏まえた代替休暇の取得日の決定方法や、代替休暇の取得の意向に応じた60時間を超える時間外労働にかかる割増賃金の支払日を労使協定で定めるべきだとしています。
【キャリアパスへの配慮等(正社員登用)】
厚生労働省の調査によると、正社員ではなく有期契約で就業している理由として、契約社員や1日の所定労働時間が正社員とほぼ同じパート労働者からの回答では、「正社員になりたいが正社員として働ける職場がない」とする割合が高くなっています。
働き方が多様化し、有期契約労働者は必ずしも正社員登用を希望しているのではありませんが、ニーズに応じて、希望する人には正社員として登用される機会が与えられることが、有期契約労働者のモチベーション向上につながるという考え方もあります。
ガイドラインではパート労働法における定めを踏まえ、通常の労働者(正社員)への転換を推進するため、その雇用する有期契約労働者について、次のいずれかの措置を講ずることを事業主に求めています。
①通常の労働者の募集を行う場合にその業務内容、賃金、労働時間等の募集条件を事業所に掲示するなど、有期契約労働者にも周知すること。
②通常の労働者の配置を新たに行う場合に当該配置の希望を申し出る機会を、有期契約労働者にも与えること。
③有期契約労働者から通常の労働者への転換のための試験制度を設けるなどの措置を講ずること。
【教育訓練・能力開発の機会の付与】
同省の調査によると、職業能力開発については契約社員の7割以上が意欲を示していて、正社員とほぼ同じ水準にあります。 しかし、計画的なOJT(仕事のなかで知識や技術を習得させる訓練)を実施した事業所割合は非正社員では正社員の約4割に過ぎず、非正社員の自己啓発を支援した割合も正社員の6割程度であるなど、能力開発の面で格差が生じているのが現状となっています。
ガイドラインではこうした実態を踏まえて、事業主は通常の労働者に対して実施する教育訓練で、職務の遂行に必要なものについては、職務の内容が同じ有期契約労働者に対しても実施するべきだと
しています。また、そのほかにも、通常の労働者との均衡を考慮して、職務の内容、職務の成果意欲、能力及び経験などに応じ、有期契約労働者に対しても教育訓練を実施するように努めるべきだとしています。
【法令の遵守等】
労働基準法をはじめ労働者を保護する法令は、通常の労働者だけではなく、有期契約労働者についても適用されます。事業主はこのことを認識して法令を遵守するとともに、就業規則や締結した各労使協定などを、一定の方法により有期契約労働者にも周知させなければならないとしています。
特に、労働安全衛生法においては、雇入れ時または作業内容を変更した場合に、その従事する業務に関する安全衛生教育を行わなければなりません。さらに、危険または有害な業務に就かせるときは、特別な安全衛生教育を行う必要があります。
また、有期契約労働者の就業の状況などを踏まえたうえで、基準に照らして加入の必要かある場合には、雇用保険などに加入させなければなりません。
いわゆる「契約社員」と言われるような有期契約労働者であっても、一定の要件を満たせば年次有給休暇や育児・介護休業などの法令で定められた休暇が適用されます。
★年次有給休暇
使用者は、その雇入れの日から起算して6ヵ月間継続勤務し全労働日の8割以上出勤した労働者に対して、次表の日数の有給休暇を与えなければならないこと。(労働基準法第39条第1項~第3項)
「6ヵ月間継続勤務」については、契約期間が6ヵ月を超えている場合はもちろんですが、3ヵ月契約のような短期契約であっても、契約が更新されて6ヵ月を超えて勤務する場合もこれに該当します。また、継続勤務の要件に該当するかどうかについては、勤務の実態に即して判断されるものなので、それぞれの契約期間の終期と始期との間に短期間の間隔を置いたとしても、それだけで当然に継続勤務が中断することにはなりません。
これは、定年退職による退職者を引き続き嘱託社員などとして期間を定めて再雇用している場合にも該当します。したがって、再雇用であっても実質的に雇用関係が継続している場合には、定年の時に残っていた年次有給休暇の日数は引き継がれることになります。
★育児休業・介護休業
引き続き雇用された期間が1年以上あり、かつその養育する子が1歳に達する日を超えて引き続き雇用されることが見込まれる有期契約労働者から育児休業の申し出があった場合、事業主はその申し出を拒むことはできません。(ただし、子が1歳に達する日から1年を経過する日までの間に、その労働契約の期間が満了し、契約の更新がないことが明らがである有期契約労働者は除かれます。)
介護休業の場合も同様で、引き続き雇用された期間が1年以上あり、かつ介護休業開始予定日から起算して93目を経過する日を超えて引き続き雇用されることが見込まれる有期契約労働者からの申し出があった場合、それを拒むことはできません。(ただし、93日を超えて1年を経過する日までの間に、その労働契約の期間が満了し、契約の更新がないことが明らかである有期契約労働者は除かれます。)
★子の看護休暇
事業主は、小学校就学の始期に達するまでの子を養育する有期契約労働者から、病気やケガを負ったその子を看護するために休暇(年5日まで)の申し出があった場合、その申し出を拒むことはできません。
契約期間の配慮と雇用契約の遵守 法令解説
有期雇用ガイドラインのポイント
■契約期間についての配慮■
統計によると、契約社員、嘱託社員など、フルタイムで働く有期契約労働者の契約期間については、「6ヵ月超~1年以内」が70%弱で最も多く、続いて「1年超~2年以内」が10%強、「3カ月超~6ヵ月以内」「2年超」などがそれぞれ9%以下となっています。(「平成17年度有期契約労働に関する実態調査報告」より)
こうした契約期間については、次のような配慮を行うことが事業主に求められています。
○使用者は、有期労働契約について、その労働契約により労働者を使用する目的に照らして、必要以上に短い期間を定めることにより、その労働契約を反復して更新することのないよう配慮すること。(労働契約法第17条第2項)
O使用者は、有期労働契約(1回以上更新し、かつ、雇入れ日から起算して1年を超えて継続勤務している者に係るものに限る。)を更新しようとする場合には、契約の実態及び労働者の希望に応じて、契約期間をできる限り長くするよう努めなければならないこと。(有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準第4条)
契約期間が短いと、長期で働きたいと思っていても、次の更新時に「雇止め」にされるのではないかという不安が常につきまといます。また、契約期間の長短は有期契約労働者のモチベーションにも影響する要素となります。 したがって、契約期間について配慮を行うことは、労働者のためだけではなく、企業の生産性向上にもつながるものと言えます。
例えば、一定の期間にわたり契約社員などを雇用する場合には、その一定の期間において、より短期の有期労働契約を反復更新するのではなく、その一定の期間を契約期間とする有期労働契約を締結することが望ましいでしょう。
■雇用契約の遵守■
○使用者は、有期労働契約について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了ずるまでの間において、労働者を解雇することができないこと。(労働契約法第17条第1項)
○使用者は、労働契約の締結に際し、退職に関する事項(解雇の事由を含む。)を明示しなければならないこと。(労働基準法第15条第1項)
○使用者は、労働者を解雇しようとする場合には、少なくとも30日前にその予告をしなければならないこと。(労働基準法第20条第1項)
○労働者が、退職の場合において、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあっては、その理由を含む。)について証明書を請求した場合や、労働者が、解雇予告日から退職日までの間において、解雇の理由について証明書を請求した場合には、使用者は、遅滞なく交付しなければならないこと。(労働基準法第22条第1項及び第2項)
有期労働契約は、やむを得ない事由がある場合でなければ中途で解除(解雇)することができません。「やむを得ない事由]があると認められる場合は、労働契約法第16条(解雇)で定める場合よりも狭いとされていますので、雇用契約期間の定めがない労働者を解雇する場合よりも厳しいと考えられます。
また、有期契約労働者も当然労働基準法の適用を受けますので、やむを得ない事由があって解雇する場合でも、通常の労働者と同じように、解雇の予告や退職証明書の交付などの手続きが必要です。
有期契約労働者の範囲と労働条件の明示等
最近の統計によると、契約社員など、雇用契約期間が決められていて、正規の社員と同じ時間働いている人が300万人を超えました。このような人たちについては、基幹的な仕事をしていても、労働力の需給調整の対象となり雇用が不安定であるため、企業にとってはモチベーションの維持や生産性の向上といった点て常に課題を抱えることになります。
こうした現状の中、2008年7月、厚生労働省は「有期契約労働者の雇用管理の改善に関するガイドライン(有期雇用ガイドライン)」を策定、有期契約労働者にも当然適用される法令などを整理して周知させています。
今号からシリーズで同ガイドラインにそって、実務上のポイントを取り上げます。
対象となる有期契約労働者とは
ガイドラインが対象としているのは、「契約を数回更新しているようなフルタイム有期契約労働者」です。ここでの「フルタイム有期契約労働者」とは、1週間の所定労働時間が通常の労働者と同じ有期契約労働者であって、次のような労働者をいいます。
(1)契約社員
(2)フルタイムで働くパートやアルバイト
(3)嘱託社員
(4)期間工 など
なお、ガイドラインはこれら以外の有期契約労働者(有期契約のパートなど)を排除するものではなく、その就業状況などを踏まえて、適宜参考にすることが望ましいとしています。
また、「パート労働法」については、フルタイム有期契約労働者には直接適用されませんが、同法に基づく指針において、同法の趣旨が考慮されるべきであるとしています。

事業主は、有期契約労働者について、安定的な雇用関係の確保、およびその労働条件や処遇等の改善を図るため、次のような点に配慮し、雇用環境の整備に努めなければなりません。
労働条件の明示等
○労働者の募集を行う者は、その募集に当たって、労働者が従事すべき業務の内容及び賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならないこと。この場合において、次の事項については、書面の交付又は電子メールにより行わなければならないこと。(職業安定法第5条の3)
・労働契約の期間に関する事項
・就業の場所、従事すべき業務の内容に関する事項
・始業・終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日に関する事項
・賃金の額に関する事項
・健康保険等の適用に関する事項
○使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して、賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならないこと。この場合において、次の事項については、書面の交付により行わなければならないこと。(労働基準法第15条第1項)
・労働契約の期間に関する事項
・就業の場所、従事すべき業務に関する事項
・始業・終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、労働者を2組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
・賃金(退職手当及び臨時に支払われる賃金、賞与その他これらに準ずる賃金を除く。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期に関する事項
・退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
有期契約労働者を募集するに当たっては求人票や募集要項に、また、労働契約の締結に当たっては雇用契約書などに、それぞれ必要な事項を記載することを求めています。「労働契約の締結」には雇い入れのときだけではなく契約更新などのときも含まれ圭すので、同じ条件で更新する場合でも、いわゆる「自動更新]とするのではなく、あらためて更新後の契約期間を記載した契約書を交わすことが望ましいでしょう。
○使用者は、有期労働契約の締結に際し、労働者に対して、更新の有無を明示しなければならず、更新する場合がある旨明示したときは、更新の判断基準を明示しなければならないこと。(有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準第1条)
「更新の有無」については、「更新する」「更新する場合がある」「更新はしない」などとし、更新する場合があるとしたときの「判断基準」については、単に「業務の都合により判断する」などとせずに、「契約期間満了時の業務量」「労働者の勤務成績、態度」「業務を遂行する能力」「会社の経営状況」「従事している業務の進捗状況」など、具体的な基準を示すことが求められます。
○使用者は、労働者に提示する労働条件及び労働契約の内容について、労働者の理解を深めるようにすること。(労働契約法第4条第1項)
○労働者及び使用者は、労働契約の内容(有期労働契約に関する事項を含む。)について、できる限り書面により確認すること。(労働契約法第4条第2項)
「理解を深める」とは、例えば、使用者が労働契約の内容を十分に説明し、労働者から確認や質問があったときは誠実に回答することなどが考えられます。説明の機会としては、労働契約を結ぶときや就業環境や労働条件が変わるときだけではなく、労働条件などの変更が行われなくても、労働者から就業規則に記載されている労働条件について説明を求められた場合なども考えられます。また、理解を深めるためには、労働条件を記載した書面を労働者に直接交付してお互いに確認することが望ましいでしょう。
期間の定めのある労働契約 労働契約法のポイント
アルバイトや契約社員など、一定の期間を定めて労働契約を結んでいる場合、契約期間の途中で一方的に契約を終了させると、相手側に少なからず影響を与えることになります。
民法第628条には、期間を定めた雇用について、「やむを得ない事由があるときは、各当事者は直ちに契約の解除をすることができる」と定められていて、労働者、使用者にやむを得ない事由がある場合に限って契約の解除権があることを示しています。
しかし、この規定がほとんど知られていないため、「アルバイトや契約社員はいつでも辞めてもらえる」「期間を細切れにすれば解雇の問題は起きない」などと誤解している使用者も少なくありません。
そこで、労働契約法では、第17条に期間の定めのある労働契約(有期労働契約)についてのルールが定められました。
期間の定めのある労働契約(法第17条)
使用者は、期間の定めのある労働契約について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。(第1項)
使用者は、期間の定めのある労働契約について、その労働契約により労働者を使用する目的に照らして、必要以上に短い期間を定めることにより、その労働契約を反復して更新することのないよう配慮しなければならない。(第2頂)
第1頂は民法第628条と異なり、使用者についてのみ、やむを得ない事由がある場合でなければ中途で契約を解除(解雇)することができないことを示しています。
ここでいう「やむを得ない事由」とはどのような事由をいうのかは法律では明らかにされていませんが、契約期間は労働者と使用者が合意により決定したものであって、遵守されるべきものであることから、「やむを得ない事由」があると認められる場合は、解雇ルール(法第16条)における場合よりも狭いとされ、「やむを得ない事由」があることの立証責任は、使用者側が負うものと解されています。
第2頂は、契約期間を設定する際に、労働者の雇用状況が不安定なものになることを避けるため、雇い入れの目的に照らして、契約期間を必要以上に短い期間にしないよう配慮することを使用者に求めたものです。
例えば、使用者が一定の期間にわたり、ある労働者を使用しようとする場合には、その一定の期間中に、細切れとなる短期の労働契約を反復更新するのではなく、その一定の期間全体を契約期間とする労働契約を締結するような配慮が必要となります。
また、どの程度の期間が「必要以上に短い期間」になるのかは法律では示されていませんが、これは個々のケースに応じて判断されることになります。
この規定は使用者に一定の「配慮」を求めたものであって、配慮をしても結果的に短期の契約期間となったことや配慮をしなかったことをもって、直ちにその労働契約が無効となったり、契約期聞が変更となるものではありません。
しかし、契約期間を細切れにしたことが原因で雇止めに関する紛争が生じた場合、配慮を行ったかどうかが考慮されるものと考えられます。
なお、有期労働契約の期間については、厚生労働省が告示した「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに間する基準」の第四条にも定めがあり、「使用者は、有期労働契約(当該契約を一回以上更新し、かつ、雇入れの日から起算して一年を超えて継続勤務している者に係るものに限る。)を更新しようとずる場合においては、当該契約の実態及び当該労働者の希望に応じて、契約期間をできる限り長くするよう努めなければならない。」というように、更新の際の契約期間について配慮を求めています。
労働契約が継続しているなかで、出向や懲戒、解雇は労働者に与える影響が大きいため、トラブルになることが少なくありません。そこで、法第14条から第16条では、使用者の権利濫用と認められる出向、懲戒、解雇については無効になることを定めています。
出 向(法第14条)
使用者が労働者に出向を命ずることができる場合において、当該出向の命令が、その必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、当該命令は、無効とする。
この条文は、使用者が労働者に出向を命ずることができる場合であっても、その出向の命令が権利を濫用したものと認められる場合には無効となることを示し
たものです。
どのような出向命令が権利濫用となるのかを判断するに当たっては、その出向が必要なものであるか、対象労働者の選定が適切であるかを中心に、その他の出向にかかる事情も加味されることになります。
また、どのような場合に使用者が出向を命ずることができるのかについては明確にされていませんが、個別具体的な事案に応じて判断されることになります。
懲 戒(法第15条)
使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当てあると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。
懲戒は、企業秩序を維持し、企業の円滑な運営を図るために必要とされる使用者の権利とされていますが、労働者に労働契約上の不利益を生じさせるものであることから、判例をみても懲戒は無制限に認められるものではありません。
第15条は、使用者が労働者を懲戒することができる場合であっても、その懲戒が権利を濫用したものと認められる場合には無効となることを示したものです。
どのような懲戒が権利濫用となるのかを判断するに当たっては、懲戒の原因となる労働者の行為の性質と態様などの事情が総合的に考慮され、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」は権利濫用に当たるとしています。
なお、労働基準法第89条では、事業場に制裁(「懲戒」と同義)の定めがある場合には、その種類と程度について就業規則に記載することを使用者に義務づけています。
懲戒を行う場合には就業規則などの根拠が必要であるとする判例もありますが、労働契約法ではこの部分については触れていません。しかし、合理性や正当性があるかどうかを判断する「事情」の1つの要素として重要なことであると言えるでしょう。
解 雇(法第16条)
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
これは、最高裁判決で確立しているいわゆる解雇権濫用法理を規定したものです。
従来の労働基準法第18条の2にも同じ内容の条文がありましたが、民事的な解雇ルールが、罰則をもって規制される労働基準法の規定にはなじまないことから、労働契約法の成立に伴って同法第18条に移行されたむので、労働基準法第18条の2はこの法の成立にあわせて削除されました。
なお、解雇ルールが労働契約法に規定されたことは、解雇権濫用の評価の前提となる事実のうち圧倒的に多くのものについて、使用者側に主張立証責任を負わせている現在の裁判上の実務を変更するものではないとされています。
労働契約の内容の変更(法第8条)
労働契約法第6条には、労働契約は労働者と使用者の合意により成立することが定められていますが、労働契約の内容を変更する場合においても、次の第8条のとおり、双方の合意が原則となっています。
労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。
「合意により」と規定されているとおり、労働契約の内容である労働条件は、双方の合意のみにより変更されるものとなっていますので、労働契約の変更の要件としては、契約内容について書面を交付することまでは求められないものとされています。
就業規則の変更による労働契約の内容の変更(法第9条・第10条)
就業規則を変更することによって労働契約の内容である労働条件を変更する場合、賃金の引き下げなど、その変更が労働者にとって不利益になることが考えら
れます。
労働条件をめぐるトラブルの多くは、こうした不利益な変更がもとになることが多いため、法第9条および第10条では、合意がないままの就業規則の変更による労働条件の不利益変更を原則として禁止したうえで、一定の要件を満たす場合は、就業規則の変更による労働契約の内容の変更を認めています。
使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合はこの限りでない。(第9条)
使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第12条に該当する場合を除き、この限りでない。(第10条)
第10条は、「就業規則の変更」という方法によって労働条件を変更する場合は、使用者が、①変更後の就業規則を労働者に「周知」させたこと、②就業規則の変更が「合理的なもの」であること、という要件をいずれも満たした場合に、労働契約の内容である労働条件は変更後の就業規則の定めによる、という法的効果が生じることを明確にしたものです。
また、労働者に不利益となる就業規則の変更が「合理的」かどうかについては、①労働者の受ける不利益の程度、②労働条件の変更の必要性、③変更後の就業規則の内容の相当性、④労働組合等との交渉の状況、⑤その他の就業規則の変更に係る事情、を考慮要素として、個別具体的な事案に応じて判断するものとしています。
なお、就業規則の変更によっては労働条件が変更されないという合意があるときは、その部分は合意が優先することになりますが、合意の内容が就業規則で定める基準に達していない場合は、法第12条の定めによって、達していない部分は無効となり、就業規則で定める基準に引き上げられることになります。

労働契約法のポイント
労働契約の成立と労働条件決定のルール
労働契約法では、第3条第1項に、「労働契約は、労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、…」とあるように、労働契約は労使双方の「合意」が原則であることを定めています。これを、労働契約が成立するための「要件」として明らかにしたのが次の第6条の条文です。
労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。この条文は、労働契約の成立はお互いの合意によることを規定するとともに、「労働すること」と「賃金を支払うこと」が合意の要素であるとしています。この場合の合意とは、「当事者の意思が一致すること」ですので、労働契約の成立の要件としては、契約内容について書面を交付することまでは求められないものとされています。
また、民法第632条の「請負」、同法第643条の「委任」または非典型契約であっても、契約形式にとらわれず、実態として使用従属関係が認められ、労務を提供する者が労働契約法第2条第1項の「労働者」に該当する場合には、その契約は労働契約にあたるものとされます。
就業規則との関係(法第7条)
前述のとおり、労働契約は労働者と使用者の合意によって成立することが原則ですが、日本の雇用慣行では、合意があっても個別の労働契約には詳細な労働条件を定めず、就業規則によって一律に労働条件を設定することが広く行われています。そこで、労働契約法第7条では、個別の労働契約の内容である労働条件と、事業場に適用される就業規則に定める労働条件と法的関係について次のように規定されています。
労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分については、第12条に該当する場合を除き、この限りでない。
これは、労働契約において労働条件を詳細に定めずに労働者を雇用したときに、
①合理的な労働条件を定めた就業規則を、
②労働者に周知させていた場合には、就業規則で定める労働条件が、その労働者の労働条件になることを、
最高裁で確立した判例法理などをもとにして明らかにしたものです。
また、労働者のそれぞれの事情に合わせて個別に「就業規則の内容と異なる労働条件」を決め、合意していた場合は、その部分については、合意の内容が就業規則で定める基準に達しない場合を除いて、その合意が優先するとされています。「周知させていた」とは、基本的には、労働者がその就業規則の内容を知りたいときにいつでも知ることができる状態におくことをいいます。
労働基準法第106条にも就業規則を周知させる義務が定められていて、
①掲示または備え付け、
②書面の交付、
③磁気テープ、磁気ディスク等への記録及び常時確認できる機器の設置 (同法施行規則第52条の2)
のうち、いずれかの方法で周知させることを求めています。しかし、労働契約法第7条でいう「周知」は、これらの方法だけに限定されるものではなく、実質的に労働者か知ることができる状態にあるかどうかで判断されるとしています。
労働契約の内容の理解の促進(法第4条)
労働契約は、その当事者である使用者と労働者の合意によって成立しますが、契約内容について労働者が十分に理解しないまま契約を結び、または変更した場合に、お互いの認識の相違が原因で個別労働関係紛争が生じることが多くなっています。
このようなことから、労働契約法第4条では、以下のように、労働契約の内容をはっきり示し、労働者の理解を深めるようにすることが定められています。
(1)使用者は、労働者に提示する労働条件及び労働契約の内容について、労働者の理解を深めるようにするものとする。
(2)労働者及び使用者は、労働契約の内容(期間の定めのある労働契約に関する事項を含む。)について、できる限り書面により確認するものとする。
(1)について、「労働者の理解を深めるようにする」とは、どこまでを言うのか具体的に決められてはいませんが、例えば、使用者が労働契約の内容をしっかりと説明し、労働者から確認や質問があったときは誠実に回答することなどが求められるでしょう。
説明の機会としては、労働契約を結ぶときや就業環境や労働条件が変わるときだけではなく、労働者から就業規則に記載されている労働条件について説明を求められた場合なども考えられます。
(2)については、「できる限り書面で」という努力義務的な表現となっていますが、労働基準法第15条では労働条件の明示義務が定められ、労働契約の締結時に賃金、労働時間、退職に関する事項など一定の事項については書面を交付することが必要とされています。
労働契約法は、労働関係紛争を防止するという観点から、契約締結時に限らず、契約期間が続いている間の各場面で、契約内容をできる限り書面で確認することを求めているものと言えます。
また、「期間の定めのある労働契約に関する事項」には、「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」において使用者が明示しなければならない更新の有無や、更新の判断基準に関する事項も含まれるものとされています。
労働者の安全への配慮(法第5条)
労働者が職場の設備や器具などの不備が原因でけがをしたような場合には、労働者が使用者に対して民法第415条(債務不履行)や第709条(不法行為)などを根拠に、民事訴訟で損害賠償を請求するケースがあります。
通常の場合、労働者は使用者が指定した場所で、使用者が用意した設備や器具などを用いて、使用者の指示のもとで労働するということから、使用者は労働者を危険から保護するよう配慮すべき義務を負っていることは、判例で確立されたものとなっています。
こうした考え方を受けて、労働契約法(第5条)に、
使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
という規定が設けられています。
「労働契約に伴い」とされているように、労働契約の内容として具体的に定められていなくても労働者が安心して働けるよう、労働契約に付随して、当然に使用者が安全配慮義務を負うことを明らかにしたものです。
この場合の「生命、身体等の安全」には、心身の健康も含まれると解釈されていることから、職場の災害リスクマネジメントや環境の整備・改善だけではなく、長時間労働など心身に重い負荷がかかることを避けるようなことも「必要な配慮」に含まれると言えます。
労働契約の基本的なルールを定めた新しい法律「労働契約法」が、今年3月1日から施行されました。
本則が19の条文からなるコンパクトな法律ですが、労働契約をめぐる重要な判例法理をもとに策定されたものです。
労働契約法により、労使の間のトラブルが防止され、個別の労働契約が安定することが期待されています。
労働契約の原則5ヵ条(法第3条)
労働契約法第3条では、労働契約の基本的な理念と労働契約に共通する原則を5つにまとめています。
(1)「労使対等の原則」
【労働契約は、労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、又は変更すべきものとする。(第1項)】
労働契約は、初めて締結するときも変更するときも、当事者である労働者と使用者がお互いに対等な立場で、契約内容について合意(意思の合致)することが前提となることを明らかにしたものです。
労働基準法第2条(第1項)にも「労働条件は、労働者と使用者が対等の立場において決定すべきものである。」とありますが、これも同じ趣旨に基づいています。
(2)「均衡考慮の原則」
【労働契約は、労働者及び使用者が、就業の実態に応じて、均衡を考慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。(第2項)】
パートタイマー、契約社員、派遣社員など、就業形態の違いに応じて、労働契約の内容について他の労働者(正社員など)とのバランスを考慮すべきことを明らかにしたものです。
4月施行の「改正パートタイム労働法」は、いわゆる「正社員並みパート」の待遇における差別的扱いの禁止、それ以外のパートタイマーの待遇については通常の労働者との均衡に配慮することなどを事業主に求めていますが、労働契約法においての「均衡」の対象となる労働者は、パートタイマー以外にも拡げられています。
(3)「仕事と生活の調和への配慮の原則」
【労働契約は、労働者及び使用者が仕事と生活の調和にも配慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。(第3項)】
近年、仕事と生活との調和(ワーク・ライフ・バランス)が重要なテーマになっていることから盛り込まれたもので、この考え方を労働契約の締結、変更の場面でも取り入れることで、長時間労働の抑制や家庭生活に応じた特別休暇の設定などに結びつくことが期待されます。
(4)「信義誠実の原則」
【労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならない。(第4項)】
「契約」の一般原則を確認するものです。労働契約においても、使用者だけでなく労働者も信頼関係を前提にして相手方に対して権利を行使し、契約履行の義務を負うことを求めたものといえます。
労働基準法第2条(第2項)にも同様の定めがあります。
(5)「権利濫用禁止の原則」
【労働者及び使用者は、労働契約に基づく権利の行使に当たっては、それを濫用することがあってはならない。(第5項)】
これも「契約」の一般原則です。契約の当事者が契約に基づく権利を著しく拡大して行使することは「権利の濫用」となります。これが禁止されることを労働契約に関しても確認するものです。
労働契約法では、「出向命令」(第14条)、「懲戒」(第15条)、「解雇」(第16条)での権利の濫用を無効とする規定が設けられています。